平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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笹本稜平『許さざる者』(幻冬舎)

許さざる者

許さざる者

母さんを殺したやつが誰だか突き止めたら、おれが仕留めてやる。

もし、それがあいつだったとしても――。

フリーライター深沢章人の兄が自殺して六年後、彼のもとをひとりの弁護士が訪れる。その時、初めて章人は、兄が死の三日前に結婚していたことと、多額の保険金がかけられていたことを知る。その死に不審を覚えた章人は、兄の死ぬ直前の足取りを辿り、「母の死の真相を調べる」という兄の意志を継ぐため故郷へ向かう。

そこで彼が掘り起こしてしまったものとは……。(帯より引用)

「ポンツーン」2006年4月号〜2007年5月号まで連載された「仮借なき蒼穹」を改題し、加筆修正。



主にアウトドア関係のフリーライターである章人が兄の死の謎を探るため、故郷へ向かう。一番疑わしいのは、保険金の受取人であり、兄と犬猿の仲であった父親と、強欲で派手好きな継母。しかし章人が調べていくうちに、父親の疑いは晴れてしまう。

ハードボイルドな設定、そして展開。実在の事件を彷彿させる兄の不審死、そして保険金殺人の疑惑。さらに実母の謎の死など、材料はてんこ盛り。疑わしい元刑事や謎のお手伝い、兄の妻や幼い子供が出てくるなど、主要人物、脇役の配置も王道ながら巧い。これだけ設定が面白いのに、なぜ物語がつまらなくなるのだろう。

せっかくの言い流れが、ぶつっと途切れてしまう。連載の弊害が如実に出ている。加筆修正したのだろうが、章の切替部分で話の流れが止まってしまう。そして次の章で展開が新しくなってしまうので興醒め。もっと主人公の心情を書き込んでほしいところである。

結局最後の最後まで盛り上がらないまま終わってしまう。特に最後は駆け足。唐突すぎる展開は、読者を置いてけぼりにしている。少なくとも、この倍は書き込んでほしいところ。犯人の正体なんか、もっともっと腰を落ち着けて描いてほしかった。

作者は最近、書きすぎじゃないのだろうか。設定はよいのだが、どうも当初の考えとやや異なる方向に話が進んでいるような作品が多い。ここらで一度、じっくりと時間をかけた書き下ろしを読んでみたいところ。このままでは、作者の才能が多筆によって浪費されてしまう。