- 作者: 広川純
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2009/06/10
- メディア: 文庫
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2006年、第13回松本清張賞受賞。同年6月、単行本刊行。2009年6月、文庫化。
轢死した老人には、難病を抱えた孫娘がいた。老人が駅から落ちて轢死したのは事故死なのか、それとも孫娘の海外での手術のために保険金を渡そうとしたのか。老人が3000万円の保険に入り、わずか3ヶ月しか経っていない。保険会社からの依頼で、保険調査事務所の定年間際の調査員・村越努が、保険会社の新入社員・竹内善之主査と組んで、事故か自殺かを捜査する。
作者は元保険調査会社の職員。ということで、保険調査業界のことについてはお手の物だろう。"一応の推定"という法律用語は、通常では生じ得ない事実の発生が認められるときに、因果の連鎖に関する具体的事実の主張・立証がなくとも裁判所が因果関係の充足を認め、損害賠償請求権の発生を認めても差し支えないとする考え方(「弁護士ドットコム」より引用)。
保険調査員が主人公で事件の謎を解くミステリは過去にもあるし、事故か自殺かを見極めるために周囲の人々に聞き取りを続けていく展開は、はっきり言って地味。ベテランと新人とのやり取りは、保険調査員としては珍しいかもしれないが、刑事に置き換えるとよくある設定。ましてや元保険調査員が各保険業界の裏側、となるとお勉強ミステリの風が吹いてくる。お涙ちょうだいの展開は、これもまたよくある設定。
とまあ、これでもかとばかり書いてみたが、読んでみると結構引き込まれる。新人が書いたとは思えない重厚な描きぶりはなかなかのものだし、人情味あふれる主人公と周りの人たちとのやり取りは、読んでいて心が温かくなってくる。過去に体験したことを脚色しつつ書いたものと思われるが、そういった生々しさはなく、それでいてリアリティにあふれている。派手さは全くないが、読んでいて面白かった。
意外な拾い物の一冊。満場一致で選ばれたのも頷ける。