- 作者: 祐光正
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2007/05
- メディア: 単行本
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昭和の終わり頃、売れない漫画家だった作者が、神名火老人から当時の話を聞きだすシリーズ5編を収録。
弟分の辰吉が十二で殺された。かわいそうで一晩添い寝をし、目を覚ますと女の死体も転がっていた。2005年、第44回オール讀物推理小説新人賞を受賞した「
黄色団員のジャンケン雅が惚れた名も知らぬ女性。似顔絵を書いてみると、二年前の鬼啖事件で殺された娘にそっくりだった。江戸川乱歩も登場する「墨東鬼啖事件」。
乱歩の家に招かれたのは、譲二と、『浅草紅色団』の頭目、冬瓜の百合子。そこで知り合った彫刻家の家に招かれ行ってみれば、あったのは大きな透明の瓶に入った14,5ぐらいの美少女。びっくりして交番に行き、警官を呼んできたが、家があったはずの場所は更地であった。「瓶詰少女」。
黄色団の天狗小僧の長吉と、里村せんという女の子が決闘をすることになった。長吉の匕首がおせんの胸に刺さる。慌てた立会人の六が医者を呼んできたが、帰ってくると長吉もおせんもいなかった。「イーストサイド物語」。
関東大震災のときの、譲二たちの物語。「二つの墓」。
作者は久保田眞二名義で漫画を描いていた。ホームズの贋作物『ホームズ』を「ビジネスジャンプ」に連載していたことがある。
元漫画家ということもあってか、昭和初期の浅草の情景や雰囲気をうまく描き出している。それ以上にすばらしいのは、『浅草黄色団』という設定だろう。当時ならではの設定で、リアリティも十分。どことなくノスタルジーをかもし出す文章といい、仕上がりは見事なもの。事件から解決までの流れもスピーディーである。
それでも読んでいて、今一歩かなと思うのは何なのだろう。何が悪いというわけではないのだが、読んでいてそれほど面白さを感じないのは、ややくどいかなと思われる文章にあるのだろうか。
出来は見事と思うが、自分としては楽しめなかった。表紙を見たときは、面白そうだと思っていたのだが。