平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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祐光正『浅草色つき不良少年団』(文藝春秋)

浅草色つき不良少年団

浅草色つき不良少年団

昭和の初め、帝都最大の歓楽地であった浅草。当時の浅草には、色の名前を付けた不良少年団が、三つあった。後に小説や映画のモデルとなり、美少女を頭目に置いたという『浅草紅色団』。別名、暗黒団とも云われ、かなり際どくあくどいこともやっていたという話の『浅草黒色団』。そして、二つに比べて規模が小さく、十数人が集まっただけだが、一番まとまっていた『浅草黄色団』。黄色団を率いていたのは、似顔絵ジョージこと、神名火譲二少年であった。

昭和の終わり頃、売れない漫画家だった作者が、神名火老人から当時の話を聞きだすシリーズ5編を収録。

弟分の辰吉が十二で殺された。かわいそうで一晩添い寝をし、目を覚ますと女の死体も転がっていた。2005年、第44回オール讀物推理小説新人賞を受賞した「幻影浅草色付不良少年團(あさくさカラー・ギャング)」(発表時のタイトルは「浅草色つき不良少年団」)。

黄色団員のジャンケン雅が惚れた名も知らぬ女性。似顔絵を書いてみると、二年前の鬼啖事件で殺された娘にそっくりだった。江戸川乱歩も登場する「墨東鬼啖事件」。

乱歩の家に招かれたのは、譲二と、『浅草紅色団』の頭目、冬瓜の百合子。そこで知り合った彫刻家の家に招かれ行ってみれば、あったのは大きな透明の瓶に入った14,5ぐらいの美少女。びっくりして交番に行き、警官を呼んできたが、家があったはずの場所は更地であった。「瓶詰少女」。

黄色団の天狗小僧の長吉と、里村せんという女の子が決闘をすることになった。長吉の匕首がおせんの胸に刺さる。慌てた立会人の六が医者を呼んできたが、帰ってくると長吉もおせんもいなかった。「イーストサイド物語」。

関東大震災のときの、譲二たちの物語。「二つの墓」。



作者は久保田眞二名義で漫画を描いていた。ホームズの贋作物『ホームズ』を「ビジネスジャンプ」に連載していたことがある。

元漫画家ということもあってか、昭和初期の浅草の情景や雰囲気をうまく描き出している。それ以上にすばらしいのは、『浅草黄色団』という設定だろう。当時ならではの設定で、リアリティも十分。どことなくノスタルジーをかもし出す文章といい、仕上がりは見事なもの。事件から解決までの流れもスピーディーである。

それでも読んでいて、今一歩かなと思うのは何なのだろう。何が悪いというわけではないのだが、読んでいてそれほど面白さを感じないのは、ややくどいかなと思われる文章にあるのだろうか。

出来は見事と思うが、自分としては楽しめなかった。表紙を見たときは、面白そうだと思っていたのだが。