平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

藤田宜永『巴里からの遺言』(文春文庫)

巴里からの遺言 (文春文庫)

巴里からの遺言 (文春文庫)

「エトランゼーの自由は甘美な毒」戦前のパリで放蕩の限りを尽くした祖父の手紙に導かれ、僕は70年代のパリにたどりついた。そこで出会った日本人は、イカサマ賭博で食いつなぐ元プロレスラー、高級娼婦となった女子留学生、贋作専門の画家崩れ、謎の剣術指南……。旅情あふれる日本冒険小説協会最優秀短篇賞受賞作。(粗筋紹介より引用)

「第一話 大無頼漢通りの大男」「第二話 ジャン・ギャバンを愛した女」「第三話 凱旋門かぐや姫」「第四話 剣士たちのパリ祭」「第五話 マキシムの半貴婦人」「第六話 モン・スニ街の幽霊」を収録。1995年10月、文藝春秋より刊行。1995年、日本冒険小説協会最優秀短篇賞受賞作。



「花の都パリ」という言葉はいつの時代のものなのか。パリという街には、自由と芸術と、そして“花”が存在する、そういうイメージが私にはある。もちろん、どんな都市にも表と裏があり、表が華やかであればあるほど、深く暗い裏の世界も存在する。作者は1948年にパリに渡り、エール・フランスで働いていた。55年に帰国後、エッセイを執筆するようになる。

本書の舞台は1970年代のパリであり、作者が滞在していたパリとは時代が異なる。パリで何でも屋として生きている主人公とは職業も背景も異なる。しかし、主人公と作者の姿がダブって見えるのは気のせいだろうか。主人公が遭遇する様々な出来事と人物は、全て作者が遭遇した人物であり、出来事である……そう思わせるぐらい、パリの甘美で退廃的な舞台を描ききっている。

「エトランゼーの自由は甘美な毒」は、読者をも酔わせてしまう。読者は藤田宜永が注ぐワインを飲み、酔っていればそれでよい。