平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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伊坂幸太郎『死神の精度』(文春文庫)

死神の精度 (文春文庫)

死神の精度 (文春文庫)

?CDショップに入りびたり?苗字が町や市の名前であり?受け答えが微妙にずれていて?素手で他人に触ろうとしない――そんな人物が身近に現れたら、死神かもしれません。一週間の調査ののち、対象者の死に可否の判断をくだし、翌八日目に死は実行される。クールでどこか奇妙な死神・千葉が出会う六つの人生。(粗筋紹介より引用)
2003年〜2005年、『オール讀物』他に掲載。2005年6月、文藝春秋より単行本刊行。2008年2月、文庫化。



一週間前に対象者と接触し、二、三度話を聞き、報告が「可」なら対象者は八日目に死が実行され、「見送り」ならそのまま生き続ける。それが死神。なんかこう書いていると、あまり読んでいないがえんどコイチの『死神くん』を思い出すなあ……。もっとも名前だけは決まっているが、姿や年齢は毎回変わるところは全然違う。ちなみに素手で他人に触ろうとしないのは、素手で触った人間の寿命が一年縮むからとのこと。雨男という設定もあるが、こちらはあまり生かされていなかった様子。

大手電機メーカーの本社で苦情処理係をしている藤木一恵は、最近名前を指名して苦情を言ってくる客に悩まされていた。「死神の精度」。

任侠を重んじるヤクザの藤田は、兄貴分を殺害した別の組を率いる栗田を殺害しようとしていた。死神の千葉は、栗田の隠れ場所を知っていると近付く。「死神と藤田」。

山奥の洋館で宿泊客が吹雪で閉じ込められた。その洋館で、殺人事件が発生する。「吹雪に死神」。

ブティックに勤める荻原は、バーゲンに来た古川朝美に一目惚れし、引っ越し先で向かいのマンションに朝美が住んでいることを知り、熱い視線を投げている。一方、朝美はストーカーに悩まされていた。「恋愛で死神」。

渋谷で喧嘩をして殺害した森岡耕介は、千葉が運転する車に乗り込み、十和田湖へ向かうように命令した。「旅路を死神」。

太平洋に面した高台で美容院を経営する七十過ぎの老女は、客として髪を切った千葉に「人間じゃないでしょ」と言い当てた。老女は千葉に、「一生のお願い」をする。「死神対老女」。
死神の千葉を狂言回しにした連作短編集。突飛な設定の多い伊坂にしては、今更手垢が付いた題材を取り上げなくても、と思って読み始めた。第一話は普通に過ぎたのだが、第二話で首をひねり、第三話でびっくり。まさか話毎に趣向を変えて来るとは思わなかった。特に第三話の「吹雪に死神」は雪の山荘もの。その意外な真相は、本作でしか使えないものであり、まさにしてやられたと言ってしまった。正直言ってここがピークだったので、以後はややトーンダウンしてしまったが、ここまで趣向を変えながらも、「死神」ものらしさを残しているところはさすがとしか言いようがない。

やっぱりこの作者はうまいなあ、と唸らせる短編集。次は長編らしいが、読んでみようと思う。