平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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山下武『探偵小説の饗宴』(青弓社)

夢野久作から小栗虫太郎海野十三浜尾四郎へと主菜は続き、東西名探偵生みの親のカクテルに酔い痴れて、埴谷雄高香山滋、山本禾太郎が卓上狭くする探偵小説の満漢全席―――いざ喰らえ!(帯より引用)

筆者が探偵小説について様々な雑誌・新聞に書いた文書に、埴谷雄高香山滋、山本禾太郎についての書き下ろし132枚を足した評論集。

“饗宴”という言葉がぴったり来る評論集。夢野などの戦前探偵小説に関する文章から、清張や夏樹静子についての文章、内外ミステリの解説など色々な視点からの文章が面白い。しかし圧巻は書き下ろし三編。「探偵小説的『死霊』論」「海鰻荘主人・香山滋」「『小笛事件』の謎―山本禾太郎論」である。古書好き、探偵小説好きの文学者らしい視点が、読者を作家の世界へ引きずり込む。探偵小説って、これだけ煌びやかな世界なんだと思わせる一冊である。

最期に読んでいて心に打たれた文章を一つ。といっても、これは山下武ではなく、埴谷雄高の言葉であるが。

埴谷は戦後の推理小説界の本格物偏重の傾向を傾向を危ぶみ、「探偵小説とはかくのごときものという定義づけが、探偵小説の枠を拡げる方向にでなく、却って、狭める方向に動く」「探偵小説とはこのようだという定義にこだわるのは、探偵小説が本来もっている多様な性質を狭める危険性がある」と語った。