- 作者: 上野正彦
- 出版社/メーカー: ぶんか社
- 発売日: 2000/12
- メディア: 単行本
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近年増え続ける保険金殺人。本来なら弱い人たちを守るシステムである保険制度が、悪用され続けている。東京都の監察医として30年間、多くの死体を鑑定してきた作者は、医院を辞めた現在でも民事訴訟で事故死体の鑑定を依頼される機会が多い。その中には、自殺もしくは他殺といった保険金がらみのトラブルも少なくない。作者は、丹念に検死を行えば、死体自らが残した痕跡により、真相が判明すると説いている。それこそが、保険金がらみのトラブル、そして保険金がらみの犯罪を根絶する鍵である。
本書は、作者の永年の鑑定から保険金がらみのトラブルを取り上げ、監察医や法医学者の手に掛かれば保険金がらみの偽装が見破られるという事実を証明している。作者はいう。保険金殺人に、完全犯罪はない、と。
取り上げられている事件は、1986年2月のマニラ保険金殺人事件、1998年の長崎・佐賀保険金殺人事件、1998年の和歌山毒物カレー事件、1986年のトリカブト殺人事件、2000年の愛知替え玉保険金殺人事件、1974年の別府母子3人偽装殺人事件、その他放火殺人事件(無罪判決)、転落死事件などである。
巻末には保険金殺人を取り扱った『黒い家』の著者、貴志祐介との対談が収録されている。
作者は『死体は語る』『死体は生きている』などのベストセラーを出した元監察医。様々な死体鑑定ものの著書があるが、本書は保険金殺人をテーマにしているところが目新しいところか。その点を除けば、他の著書と変わるところはない。
作者は「保険金殺人に完全犯罪はない」と書く。しかし、こうも書いている。「ずさんな検死は許されない」とも。事実、ずさんな検死が、保険金殺人による一攫千金を招いているといっても過言ではない。和歌山毒物カレー事件の被告や長崎・佐賀保険金殺人事件の被告は、一度は保険金殺人(未遂)等により、多額の金を得ているからだ。そう考えると、必ずしも「完全犯罪はない」とは言い切れないかもしれない。事実、まだ露見していない保険金犯罪もあるだろう。保険会社、警察、そして監察医などがしっかりしていれば、保険金犯罪は必ず露呈する。そう作者は、捜査する側と捜査される側に警告をしたいわけだ。そのシステムが完備され、保険金殺人が根絶されることを祈りたい。