平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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新井政彦『ユグノーの呪い』(光文社)

ユグノーの呪い

ユグノーの呪い

デジタル化した患者の記憶空間に入り込み、トラウマの原因となっている記憶を変えるヴァーチャル記憶療法士。2007年に確立されたこの療法は、精神病治療を劇的に変化させた。第一期の療法士であり、今は引退同然の状態であった高見健吾のもとへ、同期であった長谷川礼子から依頼があった。患者はメディチ家の末裔、美少女ルチア。突然目と口が不自由になった原因は、16世紀に先祖が大量虐殺した新教徒、ユグノーの呪いなのか。ルチアの心の中は、数万のユグノー軍兵士に支配され、大虐殺が繰り広げられていた。健吾と礼子は、一度ルチアの心の中へ入り、重傷を負ったベンケイとともに戦いに身を投じる。

第8回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。



作者は1999年、2000年のサントリーミステリー大賞優秀作品賞を受賞している。そのせいか、文章には新人らしい堅さが感じられず、読みやすい。

なんといってもこの作品の魅力は、ヴァーチャル記憶療法士という設定だ。デジタル化した患者の記憶空間に入り込むという設定を考え出しただけで、まずは高得点間違いなしである。一つ間違うと、設定の紹介だけで百ページ以上も使ってしまいそうになるが、物語の序盤で簡潔に、そして物語にとけ込む形で書かれているので、ややこしい内容もそれほど苦にならずすんなりと受け入れることができる。そして近未来を舞台にしながら、実際の戦闘場所は16世紀というこのギャップがまた面白い。都合の悪い部分は、患者の記憶違いということで逃げられるし(あ、これは作者側の都合か)、現代人が16世紀でいかにして戦うかという設定も新しいものである。

SF要素と冒険活劇の要素、そして謎解きがミックスされた佳作に仕上がった一冊。まあ、設定そのものの細かい矛盾は指摘しようと思えばいくらでも出てきそうだが、その辺はあえて無視。登場人物の過去などの説明も不足気味だが、物語を楽しむ上では、それほど気にならない。シリーズ化できそうな設定なので、できれば続編を読んでみたい。