- 作者: 深谷忠記
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2006/08
- メディア: 単行本
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本書は二部構成。第1部「伏流」は、事件が起きるまでの登場人物による様々な想いと背景が書かれている。その丁寧な描き方は、サスペンスを盛り上げるのには非常に有効である。特に松永の描写は、本当に嫌われ者そのものであり、こいつなら殺されても仕方がないと思わせるものである。ややステロタイプな描き方ではあるが。
逆に第2部「湧出」は、殺人事件が起きてから解決までである。第1部がかなりゆっくりとした時間の流れを書いていたのに対し、第2部はかなり急スピードの展開。確かに第2部の展開は、次々と起きる「衝撃の事実」を描くためには必要であるスピードなのであるが、第1部に慣れきった身にはややとまどいを覚えてしまう。セカンドギアでゆっくり走っていたのに、いきなりトップギアに入れられると、車は振動するし、同乗者は車に酔ってしまう。そんな心地の悪さが、この作品にはある。
第2部の仕掛けはありきたりの手法なれどよく考えられているものであり、どんでん返しに慣れた読者でも作者の狙いを最後まで読み切るのは難しいだろう。
設定も謎も仕掛けもいいのに、途中の描き方を間違えてしまった、勿体ない作品。