平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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島田一男『古墳殺人事件』(扶桑社文庫 昭和ミステリ秘宝)

古墳殺人事件―昭和ミステリ秘宝 (扶桑社文庫)

古墳殺人事件―昭和ミステリ秘宝 (扶桑社文庫)

少年タイムス編集長・津田皓三の元に旧友の考古学者・曽根辞郎の訃報が届いた。多摩古墳群を発掘調査していた曽根が、その古墳の中で頭蓋を砕かれて殺されたというのだ。彼の遺した謎の詩は、誰を告発しているのか?船を模して建てられた奇怪な家を舞台に、津田の推理が冴える。考古学のペダントリィと怪奇趣味に彩られた『古墳殺人事件』に、義経伝説に取り憑かれた一族の間で発生する連続密室殺人に津田が挑む『錦絵殺人事件』を併録。後に「事件記者」で一世を風靡する著者が最初期に手がけた純本格ミステリ。(粗筋紹介より引用)

1948年に自由出版から書き下ろされた長編デビュー作『古墳殺人事件』。1949年「宝石」に「婦鬼系図」と題して一挙掲載された後、翌年岩谷選書から出版された『錦絵殺人事件』。さらにルブランのパスティーシュ「ルパン呪縛」を収録。



島田一男といえば事件記者シリーズ、南郷弁護士もの、鉄道公安官シリーズ、捜査官シリーズなど、軽快なシリーズものでいくつものベストセラーを出している人気作家だったが、デビュー作は本格ミステリだった。『古墳殺人事件』は春陽文庫で読んでいたが、『錦絵殺人事件』はなかなか手に入らなかったので、嬉しい復刊だった。

両方とも探偵役は津田皓三がつとめている。事件発生場所が違うからか、相手役の検事の名前が異なっているが、もし統一されていたらその後もシリーズものとして成立したのかもしれないかと思うと、ちょっと残念である。

『古墳殺人事件』はタイトル通り古墳群の中での密室殺人を扱ったもの。その後の作品と比べると、文章に硬さがみられるし、ここで使われるトリックもスマートなものとはいえない。それでも、戦後の本格探偵小説の息吹を感じさせる作品であり、作者の意気込みが伝わってくる好著である。

『錦絵殺人事件』は作者の長編第二作。義経伝説に取り憑かれた一族が、湘南の怪城を舞台に繰り広げる連続殺人事件である。今の読者だったら諸手をあげて歓迎しそうな舞台ではないだろうか。作者が述懐するように、もう少しページ数があったら大傑作になっていたと思う。舞台設定を全て生かし切ることができず、消化不良を起こして、なおこの面白さなのだから。