- 作者: 夏樹静子
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 1984/10
- メディア: 文庫
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人妻厚子は衝動的に一度だけ、夫の友人に身をまかせてしまった。堅物の夫は全く疑おうともしなかったが、一年後に厚子の周りで連続殺人事件が起きる。もしかしたら夫の犯行では。厚子の中で疑惑が膨れ上がっていった。「蒼ざめた告発」。
同級生だった高倉京子に頼まれ、ルポライターの私は、京子の夫の浮気の確証を集めることになった。その女性は、私と京子の同級生である雪江であった。そのことを京子に伝えるかどうか迷っているうちに、京子は別荘で殺害され、火を放たれた。容疑者は会社が倒産寸前の夫、不倫相手の雪江、そして独立の金に困っていた雪江の婚約者、田川。「二粒の火」。
弁護士薮原のもとに依頼人が現れた。妻の大学時代の同級生だった乃木蓉子は、現代日本画の大立者、寺島禅平の内縁の妻であったが、寺島は先日殺害されたばかりであった。しかも、内縁の妻である蓉子に財産を譲るという遺言書を作成する前日に。犯人は先妻の子供たちか。それとも金目当ての行きずりの強盗か。調べていくうちに意外な犯人像が浮かび上がる。「男運」。
芸能週刊誌の記者である私は、憧れている荻野純子に相談される。純子と、姉で美術評論家の妻である倉石謙二郎の妻である佳乃は誰かに狙われている、と。私は二人の周りを調査すると、なるほど怪しい人物が何人か浮かび上がってきた。しかも謙二郎が不倫をしていることまで知った。そんなある日、佳乃が殺害された。動機を持つ容疑者は純子を含めて5人。「お話中殺人事件」。
不倫相手に子供ができた菅のもとに、交換殺人を申し出た男が現れた。彼の条件をのみ、彼が妻を殺害したと報告を聞いた菅は、殺人を犯す。しかし帰ってみると、妻は生きていた。「見知らぬ敵」。
一人暮らしの典子のところに、姉から電話がかかってきた。しかし姉は、一月に事故で亡くなったばかりだった。しかし電話の姉はいう。あれは殺人であった。ある男を調べてくれ、と。「死者からの電話」。
揺れ動く女性の心理を、様々な愛のかたちで描いた短編集。1978年、集英社より文庫で出ている。
ひとつひとつの短編には違いを持たせようと工夫が施されているし、状況設定も全て異なる。ありがちではあるが、現実でも使用可能なトリックを用いたアリバイ工作もある。読んでいるうちはわりと物語に引き込まれるのだが、それでも立て続けにこう読んでしまうと、同工異曲かなと思ってしまうのは私だけだろうか。女性の心理と愛のかたちを書き続けている夏樹静子ならではの作品集だが、逆に夏樹静子らしさしか見えてこず、それ以上に飛び抜けたものがないため、物足りなさを覚えてしまう。書き続けている作家を読み続ける読者に共通の悩みかもしれない。