- 作者: 夏樹静子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1985/01
- メディア: 文庫
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ニューヨーク行き旅客機が、突然炎に包まれた。やがて、日光中禅寺湖で女社長が足を滑らせて転落、水死した。続いてニューヨークで商社マンが殺害された。一見、何の関係もないと思われた事件の接点は。そして第三の事件が。「ビッグアップルは眠らない」。
参拝客で有名な輪光寺があるT市で、銀行強盗事件が起きた。捜査は難航したが、やがて番号を控えた札が現れた。それを使ったのは、輪光寺の寺務所に務める職員だった。犯人は寺の中にいるのか。「足の裏」。
会社課長の作田が行方不明になった。不倫相手である安子は不安感を覚える。そして作田は変死体で見つかった。「漆の炎」。
銀行支店長の元に恐喝の脅迫状が届いた。身に覚えがない支店長は警察に届け、脅迫状の指示通りに金を用意するが、犯人は現れなかった。ただ、近くに現れた人物で見たことがあるような人物がいたため、早速似顔絵が作られた。同じ頃、似たような脅迫状が別の2人にも届いていることが判明した。似顔絵から、ある人物の名前が浮かび上がる。「誓約書開封」。
佐武は電車で偶然千代美を見かけた。千代美は佐武が会社寮入札で北海道に訪れた際の旅館の芸者であり、毎日のように肌を合わせていた。「すれ違った面影」。
手慣れた感じの作品5編が収録されている短編集。いずれも退屈せずに読むことはできるが、それ以上のものがあるというわけではなく、人気作家の職人の腕を見せつけたものでしかない。もちろん、このレベルの短編を書き続けることができるだけでも大したものだが。
印象に残るのは、表題作における犯罪の仕掛けと、「足の裏」における意外な展開だろうか。とくに「足の裏」は、銀行強盗から発生した意外な事件の結末に、ちょっと呆然としてしまった。
プロがプロの腕を発揮した短編集である。