平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

犯罪の世界を漂う

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「求刑無期懲役、判決有期懲役 2020年度」に1件追加。

 5月になっての初更新。今のところ、求刑無期懲役、判決有期懲役というのはほかに見つからず。意外だな。ただ、最高裁判決はほとんど出ないから、こればっかりはなんとも。

 ただ今回の判決、二審判決から1年8月経っているんですね。ときどき、こういう不思議な判決があります。いくら無罪を争っていたとはいえ、虐待していたかしていなかったであるし、そこまで長くなる要素が思いつかないです。

マイケル・ギルバート『捕虜収容所の死』(創元推理文庫)

 時は一九四三年七月、イタリアの第一二七捕虜収容所では、英国陸軍将校の手で脱走用のトンネルがひそかに掘り進められていた。ところが貫通まで六週間ほどとなった朝、その天井の一部が落ちてスパイ疑惑の渦中にあった捕虜の死骸が土砂の下から発見される。入口を開閉するには四人がかりの作業が必要、どうやって侵入したのか理解不能だった。ともあれ脱走手段を秘匿すべく、別のトンネルに遺体を移し、崩落事故を偽装する案が実行されるが……。第二次世界大戦下、連合軍の侵攻が迫るイタリア。捕虜による探偵活動、そして大脱走劇の行方は? 二重三重の趣向を鏤めて英国の雄が贈る、スリル溢れるユニークな謎解き小説!(粗筋紹介より引用)
 1952年、イギリスで発表。2003年5月、邦訳刊行。

 

 序盤の出だしは侵入不可能な場所での死体という不可能事件なのだが、途中からどうやってよりもだれが、なぜ、の部分のほうに重点が置かれ、さらに収容所からの脱走と敵国スパイが誰かという大きなテーマが重なってくるから、どこに主眼を置くのだろうと思いながら読んでいた。意外とすっきりした仕上がりだし、よくぞこれだけのテーマをまとめたなと感心。ただ、最初の事件の真相はかなりがっくり来たけれど。逃走劇というサスペンスと本格ミステリが融合した部分は面白かったけれど、逃走劇のところはもう少しページがあってもなんて思ったりもした。
 こういう作品が50年以上訳されていなかったのだな、と思うと不思議な感じ。

D・M・ディヴァイン『ウォリス家の殺人』(創元推理文庫)

ウォリス家の殺人 (創元推理文庫)

ウォリス家の殺人 (創元推理文庫)

 

 歴史学者モーリスは、幼馴染の人気作家ジョフリーに招待されて、彼の邸宅(ガーストン館)に滞在することになった。実際は彼の妻ジュリアから、夫の様子がおかしいと訴えられての来訪だった。ジョフリーは兄ライオネルから半年にわたって脅迫を受けて悩んでおり、また、時を同じくして進む日記の出版計画が、館の複雑な人間関係にさらなる緊張をもたらしていた。そしてある晩、ジョフリーは行方不明になり、ライオネルもまた姿を消した。才能と頭脳、行動力全般に秀でたジョフリーに対して、少年時代から複雑な思いを抱くモーリスが見出した彼の意外な秘密とは。パズラーの好手がいかんなく腕を振るう、英国探偵小説の王道。(粗筋紹介より引用)
 1981年、英国で発表。2008年8月、邦訳刊行。

 

 ディヴァインを色々読もうと思って、買ったままになっていた本を取り出す。本作はディヴァインの最後の長編で、出版される前年に亡くなっている。
 田舎町の屋敷で繰り広げられる人間模様。英国本格らしいユーモアがまったくなく、ドロドロした人間関係はむしろ日本の作品に近い印象を与える。殺人事件の展開があまりにもゆっくりとしているのは、英国らしいと言えるか。スコットランドヤードのカズウェル警視の言動があまりにもちんたらしているので、読んでいて鬱陶しい。わかっているのなら少しは対策しろよと言いたくなる。<br>
 被害者を取り巻くどろどろの人間模様が明らかになり、さらに探偵役のモーリス自身も巻き込まれ、犯人が誰だかわからないまま終盤の事件をきっかけに謎が解き明かされる。大したトリックがあるわけでもないが伏線の張り方が巧く、最後に解き明かされる解決にはちょっと驚いてしまった。ただ、犯人の明かし方をこういう形にしなくてもという気がしなくもないが。
 読みごたえはある作品。確かに面白い。ただ、本格ミステリとして読むと謎が少なく、ちょっと物足りなさがあるかも。

小暮俊作『帰らざる日々』(幻冬舎)

帰らざる日々

帰らざる日々

  • 作者:小暮 俊作
  • 発売日: 2005/12/01
  • メディア: 単行本
 

 元ヤクザの道上謙介は九年間の服役後、出所し、いまは足を洗って、町工場で平凡だが幸福な毎日を送っていた。ある日かつて属していた組織の組長・畑中が襲撃され、謙介は妙な胸騒ぎを覚える。襲ったのは、昔の恋人・麗子ではないのか――。悪い予感は当たり、同時に麗子が余命幾許もない身体であることを知る。組織のアジトに監禁され、凌辱の限りを尽くされる麗子をすぐに救い出さねばならない。そこには当然、「死」以外の選択肢はない。が、麗子との「約束」を守るため謙介は単身、乗り込んだ――。幻冬舎アウトロー大賞小説、初受賞! 短くも美しく燃え尽きるアウトローたちの世界を、スピード感あふれる筆致で活写した衝撃のデビュー作。(BOOKデータサービスより引用)
 2005年、第3回幻冬舎アウトロー大賞(小説部門)受賞。応募時タイトル「契り」。応募時名義樹真理。2005年12月、単行本刊行。

 

 はっきり書きます。聞いたことがない賞でした。調べてみると、9回までやっています。受賞者のラインナップを見ても、知らない人ばかり。巻末の募集要項を見ると、ノンフィクション・ドキュメンタリー部門、小説部門、漫画部門の3つがあるが、漫画部門はだれも受賞していない。締め切りを見たら、毎月末ってなっているし、作者紹介を見ても“第3回”って書いていない。どこまで本気だったんだろう。
 小説部門初めての受賞とあるが、どこがよかったのかはさっぱりわからない。道上謙介は侠進会黒崎組組員だったが、10年前に黒崎組長を襲撃された仕返しとして若頭畑中の命を受け、河北一家の頭目を拳銃で殺害し、懲役12年の刑を受けた。しかしこの抗争は、畑中と、河北一家の若頭が仕組んだものだった。当時17歳で謙介の恋人でもあった麗子は、畑中に財産を奪われ、水商売に流れる。9年で仮出所した謙介は偶然の出来事から町工場で働いていたが、黒崎の墓参りで麗子と再会。その時はそのまま別れたが、麗子は癌に侵され余命半年の命だった。麗子は拳銃で畑中の命を取ろうとしたが失敗。捕らわれ、畑中の子飼いである色事師二人に凌辱される。謙介はかつての約束を思い出し、助けに向かう。
 なんとまあ古臭い筋立て。あまりにも古臭い任侠精神。25歳で直系組長って、どんな冗談。新しいところは何一つなし。無駄に長い凌辱シーンは読んでいて不愉快なだけ。少しぐらい、目新しいアイディアは入れられなかったのだろうか。これで文章に力があればまだ読める作品になっていたのだろうが、描写不足・説明不足が目立ち、いいところがない。最後の襲撃シーンなんて、あまりにも雑すぎる展開。仮にも組長でしょう、あなた。
 誉めるところなし。よくぞ出版したものだと言いたいぐらい。作者は会社員、飲食店従業員、コピーライターを経て、応募時はバーテンダー。本作受賞後の執筆は見られない。

 

 機能更新しようと思って準備していたのに忘れていた。空いた時間を見計らいアップする。

森晶麿『黒猫の遊歩あるいは美学講義』(早川書房)

黒猫の遊歩あるいは美学講義

黒猫の遊歩あるいは美学講義

  • 作者:森 晶麿
  • 発売日: 2011/10/21
  • メディア: 単行本
 

  でたらめな地図に隠された意味、しゃべる壁に隔てられた青年、川に振りかけられた香水、現れた住職と失踪した研究者、頭蓋骨を探す映画監督、楽器なしで奏でられる音楽。日常のなかにふと顔をのぞかせる、幻想と現実が交差する瞬間。美学・芸術学を専門とする若き大学教授、通称「黒猫」は、美学理論の講義を通して、その謎を解き明かしてゆく。(粗筋紹介より引用)
 2011年、第1回アガサ・クリスティー賞受賞。加筆のうえ、2011年10月、刊行。

 

 「第一話 月まで」「第二話 壁と模倣」「第三話 水のレトリック」「第四話 秘すれば花」「第五話 頭蓋骨のなかで」「第六話 月と王様」の六編を収録。探偵役はパリから帰ってきたばかりの、24歳で教授職に就いた天才の「黒猫」。ワトソン役は大学時代からの知り合いで同い年、今はポオを研究している博士課程一年目の「付き人」。話のいずれもがポオの作品に絡んでくる。
 美学理論を駆使する長身美形の天才が「黒猫」なのだが、描写に乏しく、どんな人物なのだかさっぱり浮かんでこない。相棒である「付き人」の女性についても同様。まあ、表紙のイラストでだいぶ助かっている気がする。いわゆる「日常の謎」もので、謎そのものが小粒。美学講義と称して作者の文学論や美学理論が押し付けられるところはちょっと閉口した。ただそれを除くと、人間ドラマとしてはわりとうまくまとまっていたと思う。お約束としか思えないような探偵役とワトソン役のほのかなロマンスも、続編を望むあざとさは見えるものの、内容としては悪くない。
 軽めの作品で、クリスティーとは合わない気もするが、それなりに面白く読むことはできた。予想通りシリーズ化されているようだが、結末だけ教えてほしい。