平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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津原泰水『ルピナス探偵団の当惑』(原書房 ミステリー・リーグ)

ルピナス探偵団の当惑 (ミステリー・リーグ)

ルピナス探偵団の当惑 (ミステリー・リーグ)

 

   「そうだ、検視の結果なんだけど」と姉(警察官)は言い、「いい。聞きたくない。いま食べてるし」と私(女高生)はかえすのだが、「じゃあ聞かないで。勝手に喋るから」そうして事件に巻き込まれ(押しつけられ)てゆく私たち。どうして殺人を犯した直後に被害者の残したピザなんかを食べていったのだろうか、どうして血文字のダイイング・メッセージ(らしい)はわざわざ鏡文字になっていたのか、そしてどうして死体から腕だけを無理して盗んだのか―。才人津原泰水本格ミステリーの粋を凝らした傑作。(粗筋紹介より引用)
 津原やすみ名義で出版した『うふふ ルピナス探偵団』(講談社X文庫ティーンズハート,1994)、『ようこそ雪の館へ』(講談社X文庫ティーンズハート,1995)をそれぞれ「第一話 冷えたピザはいかが」「第二話 ようこそ雪の館へ」に改稿。さらに「第三話 大女優の右手」を書き下ろし、2004年3月刊行。

 私立ルピナス学園高等部の吾魚彩子、桐江泉、京野摩耶、祀島龍彦の4人が、彩子の10歳年上の姉である吾魚不二子やその後輩でキャリアの庚午宗一郎警部補が持ちこんだ事件を解くシリーズ。
 元々は講談社X文庫というジュニア小説なのだが、読んでみて全然そうとは思えない内容。こいつら、本当に高校生か、というぐらい高校生らしさが希薄。そもそも人物像が全然浮かんでこない。主人公の吾魚彩子は祀島龍彦にベタ惚れという設定だが、どこに惚れたんだかさっぱりわからない。これで当時の中高生は受け容れてくれたんだろうか。それともイラストが付いていたはずだから、問題なかったのかな。だったらイラストも復活してほしかったところだが。それと傲慢な姉の性格、もう少しどうにかならなかったのか。
 事件の謎解きは結構難しい、というか、龍彦がわざとと思うくらい小難しく語っており、もっと簡潔に話せないのかよ、と言いたくなったぐらい。本格ミステリファンの興味を惹きやすい題材なのに、何とももったいない。
 結局イライラしながら読み終えました。肌が合わなかったとしか言いようがない。

犯罪の世界を漂う

犯罪の世界を漂う
無期懲役判決リスト 2019年度」に2件追加。
 20代でこんな事件を起こして、未来などほとんどない状態で、何を目的に生きるのだろう。
 「小さなことができないと大きなことができない」と別件で話が聞こえてきたのだが、現状は小さなことすらできない状況なので自己嫌悪に陥っている。

E・C・R・ロラック『ジョン・ブラウンの死体』(国書刊行会 世界探偵小説全集18)

 

ジョン・ブラウンの死体 世界探偵小説全集 (18)

ジョン・ブラウンの死体 世界探偵小説全集 (18)

 

  ある冬の夜、人気のない崖地で野宿していた浮浪者ジョン・ブラウンは、大きな袋を運ぶ怪しい男に出会った。そして翌朝、120マイル離れた街道で、重傷を負い、意識を失ったブラウンが発見された。瀕死の浮浪者の遺した奇妙な話に興味を持ったマクドナルド主任警部が、休暇を利用して調査に乗り出すや、事件はたちまち複雑な様相を見せ始めた。作家の失踪、事故に見せかけた殺人未遂、袋詰めの死体……イングランド西部の荒涼たる自然を背景に展開される奇怪な事件。英国ミステリの醍醐味を満喫させる本格派の巨匠ロラックの代表作。(粗筋紹介より引用)
 1938年発表。1997年2月、邦訳刊行。

 作者はイギリスの女流作家で、英国本格ミステリを代表する巨匠のひとり。70冊以上の長編を発表し、デビュー作から登場するロバート・マクドナルド警部がほとんどの作品で探偵役を務めている。読むのは初めて。
 田舎で事件が起きて休暇中の警部が謎を解くというのは英国本格ミステリのパターンの一つ。冒頭の奇妙な話は興味深いものの、その後の地元の人への捜査は何とも緩いというか、のんびりしているというか。この英国風がどうも苦手なのだが、我慢して読み進めると、盗作疑惑を絡めるとある程度予想できたとは言え、なるほどと思われる本格ミステリを楽しむことができた。情景描写に定評があるというのは納得。これで邦訳がほとんどなかったのは不思議。
 なお"John Brown's Body"はアメリ南北戦争当時の愛唱歌。John Brownは実在の人物で、アメリカの奴隷廃止運動家である。後にこのメロディに別の詩が付けられ、「リパブリック賛歌」として有名となる。それにジョン・ブラウンという登場人物も掛けている。巧いタイトルの付け方だ。

犯罪の世界を漂う

犯罪の世界を漂う

無期懲役判決リスト 2019年度」に1件追加。
「求刑無期懲役、判決有期懲役 2019年度」に1件追加。
 今週は精神的に切羽詰っていた。何なんだろ、この焦燥感。
 それはともかく、共犯者が何人もいて、複数の人物が複数の事件に所々で絡むというのは、まとめるのが大変である。それ以前に、こんな事件、起こすな、と言いたい。



下村敦史『生還者』(講談社)

 

生還者

生還者

 

  ヒマラヤ山脈東部のカンチェンジュンガで大規模な雪崩が発生、4年前に登山をやめたはずの兄が34歳の若さで命を落とした。同じ山岳部出身の増田直志は、兄の遺品のザイルが何者かによって切断されていたことに気付く。兄は事故死ではなく何者かによって殺されたのか―? 相次いで二人の男が奇跡の生還を果たすが、全く逆の証言をする。どちらの生還者が真実を語っているのか? 兄の死の真相を突き止めるため、増田は高峰に隠された謎に挑む! 新乱歩賞作家、3作目の山岳ミステリー!(BOOKデータベースより引用)
 2015年7月、書き下ろし刊行。

 2014年の乱歩賞作家、下村敦史の長編第三作。雪崩からの生還者のうち、個人で登って遭難しかかった高瀬は、偶然出会った登山隊のメンバーに助けを求めるも見捨てられたが、メンバーの一人である加賀谷だけが助けに来てくれたという。一方、登山隊のメンバーで唯一生還した東は、加賀谷は猛吹雪でビバーク中、一人で荷物を持ち逃げし、助かろうとした。登山隊は高瀬という人物に会っていない、と告白。高瀬はその後一切の取材を拒否した。登山隊のメンバーに居た兄の真実を知るべく、増田直志は、登山経験のある雑誌記者の八木澤恵利奈とともに事件の真相を追う。
 登山家であれば例え見ず知らずの相手でも助けるというのが山の掟みたいなイメージすらあったのだが、実際のところはどうだろう。ただ、そんなイメージの中で生還者二人が全く異なる発言をするというのは、非常に面白い展開。一つ明らかになると新たな謎が出てくる展開はとても巧い。一般に馴染みのない登山についても、話の腰を折らない程度で説明がなされていて、読んでいて苦にならない。結末までテンポよく読むことができる。
 一方、登場人物が少ないこともあり、事件の真相は途中で透けて見えてしまう。そのため、話の展開がじれったく感じる点が残念。それを覆い隠すために登山のシーンが入ったのだろうが、最後の追跡シーンはかなり無謀に感じた。しかも、ブランクの長そうな恵利奈が追い付くあたりはやや説得力に欠ける。マスコミはともかく、警察がかなり無能に書かれている点は気になった。冬山のシーンはもう少しページを費やしたほうが、より臨場感を増したと思う。
 もうちょっと書きようがあったような気はするものの、ネパールの雪山という舞台での謎の提出はお見事としか言いようがない。若干の粗はあれど、よくまとまった山岳ミステリ。エピローグはやや甘すぎという気もしたが。

犯罪の世界を漂う

 

犯罪の世界を漂う 更新

無期懲役判決リスト 2019年度」に1件追加。
「求刑無期懲役、判決有期懲役 2019年度」に1件追加。

一つずつ差し戻されるのは初めて見た。多分過去にはあったのだろうが、私にはわからない。