平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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クリスティン・ペリン『白薔薇殺人事件』(創元推理文庫)

 ミステリ作家の卵であるアニーは、大叔母の住むキャッスルノール村に招かれた。大叔母は16歳のときに占い師から告げられた、いつかお前は殺されるという予言を信じつづけており、大邸宅に住む奇妙な老婦人として知られている。屋敷を訪れると、大叔母は図書室で死んでいた。両手には血の跡があり、床には茎の長い白薔薇が落ちていた。予言が的中して自分が殺されてしまったときのために、大叔母は約60年をかけて親族や村人たちを調査していた。その膨大な調査記録を手掛かりに、アニーは犯人探しに挑む。新鋭が贈る犯人当てミステリの大傑作!(粗筋紹介より引用)
 2024年、イギリスで発表。2024年7月、翻訳刊行。

 作者のクリスティン・ペリンはアメリカ、ワシントン州シアトル出身。修士号と博士号を取得するために、イギリスへ移住。児童向けシリーズ"Attie and the World Breakers"を執筆。本書は初の大人向けミステリ。
 主人公はミステリ作家志望のアナベル(アニー)・アダムズ。大叔母で資産家のフランシス(フラニー)に招かれて大邸宅に行くと、大叔母は殺されていた。フラニーは遺言状で、義理の甥で検死医のサクソン・グレイヴズダウンとアニーのどちらかが1週間以内に犯人を指摘すると、そちらへ財産を渡す。どちらも謎が解けない場合は、地所のすべてを弁護士ウォルターの孫で、土地開発会社社員オリヴァー・ゴードンと雇い主のジェソップ・フィールズに売却し、売却金と財産の残りは国庫に寄付するという。1965年に占い師に言われた殺されるという予言。そして1966年に起きたトラブルメーカーの友人、エミリーの失踪。フラニーが遺した調査記録を基に、アニーは犯人探しに挑む。
 帯に「ホロヴィッツと並ぶクリスティの後継者による犯人当てミステリ!」とまで書かれていたので、期待が高まっていたのだが……。うーん、微妙だな。
 多すぎる村人たちの会話を中心とした前半のもどかしい展開は、英国ミステリだから仕方がない。現代と過去が行ったり来たりで書かれるのは、登場人物が多いと覚えるのに大変。どちらかといえば、過去のドロドロ青春ミステリっぽい展開の方が楽しめたかな。アニーに危機が迫っても感情移入ができないのは、作者の課題だと思う。
 予言と殺人を絡めたストーリーは悪くないが、肝心のミステリ要素が物足りない。トリックがあるわけでもなし、ロジックも薄い。意外な仕掛けも残念ながら無し。確かに犯人は予想外だけど、そこに至るまでの展開が物足りないので、してやられたという満足度は少ない。それにタイトルも違うよね、これ。
 まあ、悪くはないけれど、それは犯人当てミステリ、としての面白さではない。読む前にハードルを高く上げてしまったことが、個人的に失敗だった。先入観無しに読めば、もう少し楽しめたかもしれない。