電機業界の機密攻防戦のさなか、経営悪化の産業調査研究所を営む日沼らは有力メーカー・エコーの新製品の機密を握る。時を同じくして、経営不振を見透かしたかのようにエコーから大きな仕事がまいこむ……。そして“電業新聞”の磯村社長の突然の失踪──その意味するものは、いったい何か? 各メーカー入り乱れての熾烈な裏工作、スパイ活動を迫真のタッチで描く産業推理小説。
1962年、三一新書より刊行。同年、第48回直木賞候補。1985年4月、集英社文庫化。
1962年にデビューした邦光史郎の長編二作目。作者が初期のころに書いていた産業推理小説の代表作。解説には、作者自ら「産業スパイ小説」というネーミングを出版社に申し入れたとのこと。
東芝、松下電器、ソニーを思い起こさせるような東邦電気、山中電器産業、エコーなどの電器メーカーが入り乱れる産業スパイ小説。この分野でいえば、代表作なんだろうとは思う。実際、タイトルだけは知っていたし。
ただ今読むと、とんでもなくきつい。リアルすぎる書き方のため、あまりにも考え方も行動も古い。女性を道具扱いするような社会の描き方は、戦前くらいまでのド田舎だったらファンタジー扱いして読めるのだが、普通の企業を舞台として読むのはとんでもなくしんどい。それに行動パターンも古臭い。産業スパイが仁義なき戦いであることはわかっているのだが、攻める方も守る方もここまでやりたい放題というのは読んでいてしんどい。
この時代のミステリが読まれなくなった理由が、今さらながら身に沁みてわかるような一冊だった。ただ、ただ、しんどいだけ。昔の社会派推理小説だと、ここまでしんどくならないんだけどなあ。