- 作者: 高柳芳夫
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1984/01
- メディア: 文庫
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1977年3月、『ライン河の舞姫』のタイトルで講談社より刊行。1984年1月、改題の上文庫化。
ライン河の古城を舞台にしながら、あまりにもその陳腐なタイトルで、作品自体は昔から知っていたが、手に取るのは初めて。乱歩賞受賞より以前に書かれたものだとは知らなかった。
舞台は美しいのに、集まっているのは金と権力にしか目を向けようとしないエロ爺……、もとい、日本の政財界人たちというのは、あまりにも醜すぎる。実際、なかで繰り広げられる会話は醜悪そのもの。とはいえ、作者の狙いもそこにあるのだろうから、文句を言っちゃいけない。
密室殺人、犯人消失など本格推理小説の古典的な手法が使われているが、作者が書きたかったのはあくまで登場人物の人間模様。文庫版のあとがきで作者が書いているとおり、「この作品では、本格推理としての工夫の他に、出来栄えいかんは別として、小説本来の面白さをも意識して書くことに努めた」作品である。ドイツという舞台は必要だったが、古城を生かし切れていないのは残念。少なくとも、トリックの真相は面白みのないものであり、“本格推理”の部分だけを見ると退屈してしまうだろう。作者が書きたかったのは、事件を取り巻く人間模様であり、ドイツという舞台ならではの悲劇なのだから。
この作品は、『「
この人の作品は乱歩賞受賞作と「オール讀物」推理小説新人賞受賞作しか読んでいないが、下手に本格推理小説を書かなかった方が正解だったと思える。元外交官だったのだから、そちらの経験を生かしたスパイ小説や冒険スリラーをもっと書くべきだっただろう。