平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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米澤穂信『春季限定いちごタルト事件』(創元推理文庫)

春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)

春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)

小鳩くんと小山内さんは、恋愛関係にも依存関係にもないが互恵関係にある高校一年生。きょうも二人は手に手を取って清く慎ましい小市民を目指す。それなのに、二人の前には頻繁に奇妙な謎が現れる。消えたポシェット、意図不明の二枚の絵、おいしいココアの謎、テスト中に割れたガラス瓶。名探偵面をして目立ちたくないというのに、気がつけば謎を解く必要に迫られてしまう小鳩くんは果たして小市民の星を掴み取ることができるのか? 『さよなら妖精』の著者が新たに放つ、コメディ・タッチのライトなミステリ。

2004年12月、文庫書下ろしで刊行。



ここ数年、米澤穂信作品が絶好調なのだが、最初の印象が悪く、どうも読む気が起きない。それだったらライトな作品から呼んでリハビリをして、それから挑もう、と思って読み始めた作品。「羊の着ぐるみ」「For your eyes only」「おいしいココアの作り方」「はらふくるるわざ」「孤老の心」を収録。

いわゆる連作短編集だが、一冊の中全体を通した謎があるわけではない。もっとも、途中で盗まれた自転車が絡む話が、最後に出てきて、なぜ二人が小市民を目指しているのかがわかる。ここまでくれば、もう恋愛関係でいいじゃないか、その方がよっぽど小市民だぞ、などと思うのだが、それはおじさんの感想か。

目の前に現れる奇妙な謎は、本当に小さな日常の謎ばかりであり、「おいしいココアの作り方」なんかは気にしない人には本当に気にしないだろう、という程度のものでしかない。一応推理はあるけれど、そこまでドラマティックな解決方法があるわけでもなく、本格ミステリファンから見たらやや不満の残る仕上がりではないか。

気のせいかも知れないが、作者の方が勝手に先走りしているんじゃないか、という印象をもった。なんかもっと描写を足せばいいのに、と思うところが多々ある。

いかにも、という感のライトノベルな仕上がりのように見えるが、今時のライトノベルから見たら、かなりおとなし目の印象。昔のジュニア小説といった方がピンと来そうだ。まあ、そういう意味では楽しめることができる作品かもしれない。小山内さんの過去は、さすがに気になるし。