平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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今野敏『一夜 隠蔽捜査10』(新潮社)

 神奈川県警刑事部長・竜崎伸也のもとに、著名作家・北上輝記が小田原で誘拐されたという一報が入る。小田原警察署に捜査本部が置かれたが、犯人からの連絡が何もない。誘拐の目的も安否も不明の中、北上の妻から情報を聞いた友人のミステリ作家、梅林賢の助言を得ながら捜査に挑む。梅林のファンだという警視庁刑事部長・伊丹俊太郎は、杉並区久我山で起きたアルバイト警備員の殺人事件の捜査に携わっていた。そして竜崎は、ポーランドの留学から帰ってきた息子・邦彦が一日も早く映画の仕事を始めたいので東大を中退したいと言い出したことに頭を悩ます。(帯の紹介文に一部加筆)
 『小説新潮』2022年10月号~2023年9月号まで連載。2024年1月、新潮社より単行本刊行。

 人気シリーズ長編第10弾。今回は人気作家誘拐事件の謎に挑む。
 誘拐事件の真相については、誰でも想像つくだろう。もちろんミステリだから想像つくのであって、現実にこんな事件が起きたら、簡単に答えは出てこないだろうが。なので、事件の謎解きとしての面白さはほとんどない。
 本作で一番目立つのは、ミステリ作家、梅林賢である。多分だけど、作者自身がモデルなんだろうな。本作はともかく、他の事件にまで関わると興醒めしてしまうから、今後は出てこなくていいよ。誘拐された著名作家の方も実際にいる作家と名前が似ているけれど、大丈夫なんだろうか。
 竜崎と板橋武捜査一課長のやり取りは見ていて面白い。板橋に帰ってくれと言われてぼやく竜崎には笑った。今後出てくるかどうかわからないが、小田原署副署長の内海順治も悪くないキャラクターだ。一方、阿久津重人参事官や佐藤実神奈川県警本部長、敵役になりそうな八島圭介警務部長は今一つ。次は活躍の場を与えてほしい。
 シリーズのファンならそこそこ楽しめるだろうが、内容の物足りなさに不満を持つ人も多いだろう。次作はもう少し頑張ってほしい。