平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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ロビン・スティーヴンス、シヴォーン・ダウド(原案)『グッゲンハイムの謎』(東京創元社)

 夏休みを迎えた十二歳のテッドは、母と姉といっしょに、グロリアおばさんといとこのサリムが住むニューヨークを訪れた。おばさんはグッゲンハイム美術館の主任学芸員で、休館日に特別に入館させてくれた。ところが改装中の館内を見学していると、突然、何かのきついにおいと、白くて濃い煙が。火事だ! テッドたちは、大急ぎで美術館の外に避難した。だが火事は見せかけで、館内の全員が外に出た隙に、カンディンスキーの名画〈黒い正方形のなかに〉が盗まれていたのだ。しかも、おばさんが犯人だと疑われて逮捕されてしまう。なんとしても絵を取りもどして、おばさんの無実を証明しなければ。「ほかの人とはちがう」不思議な頭脳を持つテッドは、絵の行方と真犯人を探すため謎解きに挑む。『ロンドン・アイの謎』につづく爽快なミステリ長編!(粗筋紹介より引用)
 2017年、発表。2022年12月、邦訳単行本刊行。

 『ロンドン・アイの謎』の続編で、前作から3か月後の話である。作者のシヴォーン・ダウドは2007年に前作を発表してからわずか2か月後に病死したため、本作は2015年にシヴォーン・ダウド基金から続編執筆を依頼されたロビン・スティーヴンスが執筆している。タイトルはダウドが生前に執筆契約を結んでいた時のものだが、構想を練る前に亡くなっているので、タイトル以外はスティーヴンスが考えたものである。
 前作の主人公であるテッドやその姉のカット、母親、そして叔母のグロリアといとこのサリムが引き続き登場。父親は仕事があるということで、お留守番である。偽の火事の間に名画が盗まれてしまい、グロリアが逮捕されてしまう。犯人と名画の行方を求め、テッドたちが事件に挑む。
 作者名を隠されたら、別人が書いたとは思わないぐらい、違和感がない。登場人物それぞれのキャラクターを生かしているし、本格ミステリとしての骨格もそのまま。事件が発生し、まずは複数の仮説を立て、一つ一つ消していく過程も同じである。そしてさらに凄いと感じたのは、前作の事件からわずか3か月しかたっていないにもかかわらず、テッド、カット、サリムの成長を描いているところである。子供というものは急激に成長するもので大人を驚かせるが、前作で大きな事件に遭遇しているとはいえ、3か月でどこまで成長するのか。そのバランスが非常に巧い。よくぞここまで書けたものだと思う。
 この続きは書かれていないようだが、ここで止めておいた方が無難だろうとは思う。3人がこれ以上成長するとなると、どの方向に進んでいくのか。こればかりは元の作者でなければわからない話である。
 前作を面白く読んだ方ならぜひ読むべき作品だし、読んでいない方はセットで読んでほしい。そして子供たちにも読んでほしい。そう思わせる良作であった。