平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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若竹七海『暗い越流』(光文社文庫)

 凶悪な死刑囚に届いたファンレター。差出人は何者かを調べ始めた「私」だが、その女性は五年前に失踪していた!(表題作) 女探偵の葉村晶は、母親の遺骨を運んでほしいという奇妙な依頼を受ける。悪い予感は当たり……。(「蝿男」) 先の読めない展開と思いがけない結末――短編ミステリの精華を味わえる全五編を収録。表題作で第66回日本推理作家協会賞短編部門受賞。(粗筋紹介より引用)
 2013年、表題作で第66回日本推理作家協会賞短編部門受賞。『メフィスト』『宝石 ザ ミステリー』掲載作品に、書下ろし二編を加え、2014年3月、光文社より単行本刊行。2016年10月、文庫化。

 長谷川探偵調査所と契約しているフリー調査員、葉村晶に依頼を頼んだ女性は、亡くなった心霊研究家の祖父が住んでいた群馬県の家にある母の遺骨を取ってきてほしいと頼んできた。しかも一週間前に同じ内容を頼んだフリーライターは、今も戻ってこないという。怪しさ満載の依頼を受けた葉村だったが。「蠅男」。
 五十を過ぎた死刑囚に送られてきたファンレター。受け取った弁護士に頼まれ、住所が書かれていない差出人を調べ始めた編集者の「私」は、ある偶然から探し当てるも、その女性は五年前に失踪していた。「暗い越流」。
 地味な出版社の看板雑誌の女性編集長が行方不明になった。社長に頼まれ、ライターの男と一緒に行方を捜し始めるが、編集長は何人もの人を脅していた事実を知り驚く。そして編集長の墜落死体が見つかった。「幸せの家」。
 苅屋学は7歳の時に行方不明となり、3日後に見つかった。しかし教師だった父は、何も話さず黙っていろという。それから7年後、父は自殺した。学は浴びるように酒を飲んでアル中となり、結婚も破綻。7年前に母が癌で亡くなり、家を片付けていると、川向うにある教会のシスター2人が訪れ、児童養護施設の運営資金を集めるためのバザーに不用品を寄付してほしいと話してきたので了承した。ボランティアの男性とともに部屋を片付けていると、一枚の中学生の女の子の写真が出てきた。その女性は、小さい学を連れまわした人物だった。「狂酔」。
 吉祥寺のミステリ専門店でアルバイトを始めた葉村晶。遺品整理で金庫を開けるのに必要なこけしを取りに、福島まで出かけることに。「道楽者の金庫」。

 協会賞受賞作、葉村もの2編を含む短編集。しかしどれを読んでも若竹節が炸裂している。口当たりの良い読みやすさ、見かけとは裏腹の苦い結末。さすが、イヤミスを書かせれば天下一品である。
 葉村ものの2編のうち、「道楽者の金庫」はミステリ専門店「MURDER BEAR BOOKSHOP 殺人熊書店」でアルバイトを始める顛末が書かれている。作品的にも重要なので、葉村シリーズの短編集にまとめた方がよかった気もするが……。
 表題作は、葉村ものにでも書き直せそう。受賞も納得の出来である。
 「狂酔」は本作品中の異色作。不気味な作品だし、着陸の仕方が予想外。まさかこちらの方向に向かうとは思わなかった。

 居酒屋で全国各地の日本酒の飲み比べを楽しませてくれるようなのような短編集。ただ、テーマに統一性は欲しかった。贅沢な願いではあるが。