平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

白井智之『名探偵のはらわた』(新潮社)

 稀代の毒殺魔も、三十人殺しも。日本犯罪史に残る最凶殺人鬼たちが、また殺戳を繰り返し始めたら――。新たな悲劇を止められるのはそう、名探偵だけ! 善悪を超越した推理の力を武器に鬼の正体を暴き、そして、滅ぼせ!(粗筋紹介より引用)
 2020年8月、書下ろし刊行。

 

 「【記録】」「神咒寺事件」「八重定事件」「農薬コーラ事件」「津ヶ山事件」「顛末」を収録した連作短編集。作者の書くものはグロいと聞いていたので敬遠していたが、『名探偵のいけにえ』が傑作との話だったので、前作から読んでみる気になった。
 なんともまあ、粗筋の書きにくい作品。特殊設定下の本格ミステリで、しかも実在事件に似せながらも異なる内容で、さらに現代で新たに挑むという展開。まずは第一話を理解しないと、先には進めない。ここさえ過ぎれば、名探偵の推理を楽しむことができる。ただ、無理に実在事件を使わなくてもよかったんじゃないかと思うのだが、この辺りは作者に聞いてみないと何とも言えない。
 身構えていたがそれほどグロい内容はないし、推理も割とあっさりめ。登場人物はちょっと強烈だが、着いていけないほどではない。ただ、作者が何をやりたいのかが、今一つ見えてこなかった。過去の実在事件に新しい光を当てたかったわけではないだろう。実際の事件とは異なる部分もあるわけだし。
 「【記録】」にはファイルが7つあるのに、全部出てくるわけではないのはちょっと興覚め。やはりこれは、続編があるのだろうか。そうすれば、作者のやりたかったことが見えてくるかもしれない。