平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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ジョルジュ・シムノン『サン・フォリアン寺院の首吊人』(角川文庫)

 男はメーグレの目前でピストル自殺をとげた。この浮浪者同然の男が、ブラッセルで3万フランの大金を送るのを目撃して以来、警部は後を尾けていたのだ。遺品はすりきれた黒い鞄一つ。中には、ぼろにひとしい古着が一着。
 鑑識の結果、上着には10年以上まえに付着したと思われる、かすかな血痕があった。そして不可解なことに、自殺した男は生前、大金を各地からパリの自宅に送っては、それをすべて燃やしていたというのだ。
 執拗なメーグレの捜査のまえに、死んだ浮浪者の哀切な過去と、かつてのおぞましい事件が再現されてゆく――。
 妖異なムードを湛えた、シムノン推理の異色傑作!(粗筋紹介より引用)
 1930年、発表。メグレシリーズの長編第三作。1950年、水谷準訳により雄鶏社「おんどり・みすてりい」で邦訳刊行。1957年、角川文庫化。

 

 私にとっては江戸川乱歩『幽鬼の塔』の翻案元というイメージが強いのだが、乱歩の翻案元作品でこれだけはなかなか見つからなかったので、ようやく読むことができた。
 メグレ(メーグレとは書きにくい)のしつこさはさすがと思ったが、漂う雰囲気がかなり妖しく、シムノン作品ではかなり異色なのではないだろうか(あまり読んだことがないから何とも言えないが)。なぜだかわからないが、メグレが悪人に見えてくるほど、登場人物の悲鳴が哀しすぎる。これ、時代背景をもっと深くわかっていれば、より感慨深いものになっていたかと思うと、自分の不勉強ぶりが悔しい。
 なんで初期のメグレ物、新たに翻訳しないのだろう。十分需要があると思うのだが。