- 作者: 斉藤詠一
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2018/09/20
- メディア: 単行本
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一九四五年、ペナン島の日本海軍基地。訓練生の星野信之は、ドイツから来た博士とその娘・ロッテを、南極にあるナチスの秘密基地へと送り届ける任務を言い渡される。
現在と過去、二つの物語が交錯するとき、極寒の地に隠された"災厄"と"秘密"が目を覚ます!(帯より引用)
2018年、第64回江戸川乱歩賞受賞作。応募時名斎藤詠月。加筆修正のうえ、2018年9月、刊行。
昨年は受賞作が無かった分、今年への期待値は結構高まっていたのだが、読み終わってみるとややがっかりか。「到達不能極」は実際にある言葉だが、本作で初めて知った。
現代パートでは南極で不時着するのだが、極限の寒さの描写が特に優れている。本当に身が震えるような寒さが伝わってくる。徐々に謎が明らかになっていく展開も巧いし、人物描写も過不足なくまとまっている。場面や視点の切り替えも違和感がない。過去パートでは、帝国海軍に所属する18歳の星野信之を含む台場大尉他が操縦する一式陸攻にて、実際はユダヤ人であるドイツの科学者、ハインツ・エーデルシュタイン博士と娘のロッテをペナンから南極の秘密基地へ送り届ける。ヒトラーのとある野望を達成するために、博士の研究成果が必要だった。飛行機の知識は分からないが、描写は臨場感があふれている。終戦間近にしてはずいぶんとフランクな雰囲気が流れているような気もするが、それは海軍ならではなのだろう。それほど違和感はなかった。戦場下における星野とロッテのロマンス、そしてそれを見守る上司たちの描写は心が温まる。
小説のテンポもいいし、人物描写もいい。過去と現代が切り替わりながら、どちらも徐々にピンチとなり、二つの時代が重なり合う時、人類の危機が迫る。読んでいてワクワクした。
しかしだ。肝心のアイディアがあまりにも古い。昭和ならともかく、平成のこの時代でこのアイディアは通用しないだろう。さらにいえば、二つの時代が重なった後の展開が、B級アニメより安っぽく、ドタバタしているのが残念。修正してこれなのだから、応募の時点ではもっとひどかったのだろうか。本当、最後で台無しである。
もっといいアイディアを考え出してほしかった。勿体ない。この一言に尽きる。これだけの筆力がありながら、なぜこんな仕上がりになってしまったのか。作者はSFにあまり詳しくないのだろうか。
乱歩賞でこのような作品が受賞するとは思わなかった。少なくとも、ミステリではないよね。