平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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小路幸也『空を見上げる古い歌を口ずさむ pulp-town fiction』(講談社文庫)

 みんなの顔が〈のっぺらぼう〉に見える――。息子がそう言ったとき、僕は20年前に姿を消した兄に連絡を取った。家族みんなで暮らした懐かしいパルプ町。桜咲く〈サクラバ〉や六角交番、タンカス山など、あの町で起こった不思議な事件の真相を兄が語り始める。懐かしさがこみ上げるメフィスト賞受賞作!(粗筋紹介より引用)
 2002年、第29回メフィスト賞受賞。2003年4月、講談社より単行本刊行。2007年5月、講談社文庫化。

 「東京バンドワゴン」シリーズで名を馳せた作者のデビュー作。作者が生まれ育った旭川市パルプ町が舞台。
 ミステリなんだか、ファンタジーなんだか、ジャンルを定義するのが難しい。確かにあの頃の風景を描いて懐かしさが込み上げてくるのだが、「のっぺらぼう」が存在する設定と、殺人事件などがなじまない。無理に人が死ぬ設定を出さなくてもよかったと思う。メフィスト賞を意識しすぎたかな。
 作者が書きたかったノスタルジーで押し切った方がよかったと思う。人がいなくなる話が妙に生々しく、それでいて作品に溶け込んでいない。水と油の様に分離されてしまうものを、無理矢理混ぜ込んでしまった感がある。中途半端な仕上がりが、何とももどかしい。