- 作者: 福井晴敏
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2003/08/08
- メディア: 文庫
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1997年、第43回江戸川乱歩賞最終候補作。加筆修正の上、2000年9月、単行本刊行。一部加筆の上、2003年8月、講談社文庫化。
激戦となった第43回江戸川乱歩賞最終候補作。受賞作は野沢尚『破線のマリス』で、最終候補作家は他に池井戸潤、高嶋哲夫、釣巻礼公といずれもプロになっている。
福井晴敏の実質的な処女作。オウム真理教の地下鉄サリン事件を彷彿させる地下鉄テロ事件の裏に隠された日本の暗部に巻き込まれてしまう主人公。組織としての警察に絶望したまま責任をとらされて今ではグータラ警備員なれど、追われる二人の少年少女を助けるうちについつい熱くなってしまう。うーん、あまりにもステレオタイプ。とはいえ、読んでいる方もついつい熱くなってしまうので、これはこれで良いのかも。
増村保、須藤葵の二人の少年少女にもついつい感情移入してしまう。敵であるはずの城崎涼子も悪くない。暴力団幹部である金谷稔も魅力的だ。ただ、いずれも"よくある"造形で終わっているのがちょっと残念。
最期の展開がちょっと漫画的だったのは失敗ではなかったか。主人公にグータラ警備員を配置することで現実との乖離を防いでいたのに。ここは惜しまれるところ。逃れるためとはいえ、もう少し現実的な手段を考えてほしかった。
作者の原点ともいえる作品であり、後の作品にも出てくる登場人物がここでも出てきているらしい。そういう観点で見たら、もう少し楽しめたのかもしれない。面白いのは事実だが、完成度という点ではやや劣る。乱歩賞に届かなかったのも、仕方のないところだったか。