- 作者: 飴村行
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2009/08/22
- メディア: 文庫
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2009年8月、角川ホラー文庫から書下ろし刊行。2010年、第63回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)を受賞。
デビュー作『粘膜人間』に続く粘膜シリーズ(でいいのか?)第二弾。全作と同様、戦争前の軍国主義の日本を舞台としているが、それ以外の共通点は特にない。何といっても今回は、蜥蜴そっくりの爬虫人が登場。東南アジアのナムールで生まれ育った爬虫人・ヘルビノがキーワードとなる。
「第壱章 屍体童子」は、町唯一の病院である月ノ森総合病院の院長、しかも医師で富豪で軍や中央の政治家とも結びつきのある月ノ森大蔵の一人息子、雪麻呂に招待された同級生の真樹夫と大吉の話。病院の死体安置所に連れられた後、特別病棟に連れて行かれる。
「第弐章 蜥蜴地獄」は、真樹夫の11歳年上の兄、美樹夫の話。東南アジアのフランス領ナムールに赴任している少尉の美樹夫は、軍と癒着して阿片を売りさばいている間宮勝一を経験豊富な部下の坂井総長、野田伍長とともに五〇キロ先の村落まで護衛する任務を受けた。しかしその道中で野田はゲリラに撃たれて死亡。徒歩の移動中、坂井は巨大肉食ミミズ・ゼムリアに食べられ死亡。何とか村に着くも、近くに棲家があるヘルビノに全滅させられていた。
「第参章 童帝戦慄」は、月ノ森雪麻呂の話。雪麻呂の母親は三ヶ月前に家出して行方が知れず、時々手紙が届くのみだった。そして父親の大蔵は部屋に閉じこもって小説を書いていた。雪麻呂が結婚を熱望する2歳年上の従姉・魅和子は、1歳年上の従兄・清輔と雪麻呂が決闘して勝った方の許婚になると宣言。互いに代理人を出して決闘を行湖ととなったが。
第壱章はプロローグ。異常ともいえる月ノ森家や爬虫人の紹介、そして唯一の肉親である兄を慕う真樹夫の物語である。まずは爬虫人という存在に圧倒されるが、容貌を除けば至ってまとも(この世界では、という前提でだが)。むしろ特別病棟に収容されている人たちの狂った心の方が恐ろしい。ただ、作者の本領が発揮されるのは第弐章。舞台を東南アジアに移し、爬虫人・ヘルビノの部落が登場。さらにナムールでの脱出行に出てくる怪物たちは、作者の本領がいかんなく発揮されたグロテスクさである。第参章は今までの伏線回収と、雪麻呂の母親失踪の真相、父親の研究が重なり合っての結末が待っている。暴力シーンの残酷さは、まさに作者ならでは。
爬虫人という造形だけでも十分物語として成立するだろうに、さらに月ノ森家の謎や美樹夫・真樹夫兄弟の絡みなど、印象深いシーンが盛りだくさん。雪麻呂のどこがいいんだろう、という疑問はあるのだが(笑)、いずれにしろ設定の奇抜さと残酷さと暴力、グロテスクに加え、ファンタジーや謎解きの要素も加味するなど、まさに至れり尽くせりのホラー。これだけ残酷な話なのに、なぜか最後は余韻が心地よいという不思議な作品である。よくぞここまで、といっていいだろう。