平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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豊田正義『消された一家―北九州・連続監禁殺人事件』(新潮文庫)

消された一家―北九州・連続監禁殺人事件 (新潮文庫)

消された一家―北九州・連続監禁殺人事件 (新潮文庫)

七人もの人間が次々に殺されながら、一人の少女が警察に保護されるまで、その事件は闇の中に沈んでいた――。明るい人柄と巧みな弁舌で他人の家庭に入り込み、一家全員を監禁虐待によって奴隷同然にし、さらには恐怖感から家族同士を殺し合わせる。まさに鬼畜の所業を為した天才殺人鬼・松永太。人を喰らい続けた男の半生と戦慄すべき凶行の全貌を徹底取材。渾身の犯罪ノンフィクション。(粗筋紹介より引用)

2005年11月、新潮社より刊行。2009年2月、加筆の上新潮文庫より刊行。



北九州連続監禁殺人事件は、松永太という卑劣な殺人鬼によって巻き起こされた悲惨な事件である。正直言って、この事件の概要は書きたくない。あまりにも悲惨で、あまりにも鬼畜な事件であったといってよい。

作者はこの事件を丹念に取材し、その実態に迫っている。表現こそ抑えているものの、そこに書かれている事件の内容は、はっきり言って正視できるものではない。なぜ彼らはこんな男に従ってしまったのか。しかし、そのような実例は世の中に溢れている。こんな男になぜ金を貢ぐのか、こんな女になぜ簡単に騙されるのか。しかしこの事件はその度を超えている。それでも人が従ってしまうところに、人の心理の不可解さが有り、そこにつけ込む松永という男の恐ろしさがある。

ただ、松永太がどういう男なのか、どういう風に育ってきたのかという点に乏しかったのは残念。どうすればこのような男ができあがるのかを知りたかった。

松永被告は裁判で無罪を主張していた。死刑判決確定後の動向は不明であるが、2015年12月現在、死刑は執行されていない。そして松永死刑囚より後に確定した死刑囚のうち数人がすでに執行されている。