平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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江東うゆう『楽土を出づ』(新風舎)

楽土を出づ

楽土を出づ

江東烏有が尊敬する院生の白井未央の双子の姉、崎川真央が現われ、夫・崎川建を殺したと告白する。しかし烏有は、彼女が真央ではなく未央であることを見破った。未央は建がかつて恋人だったが真央に奪われたこと、真央と建を殺したことを告白するとともに、烏有が曹操に仕えていた詩人・王粲について書いた卒業論文を読み、殺人の時意識したと話す。そのまま未央は失踪し、2年が過ぎた。烏有が勤める法律事務所に双子の伯母が現れ、失踪した真央夫婦が住んでいた屋敷を手に入れたいと相談に来た。固定資産税などは払っているが、肝心の捜査願は出していないという。烏有は二人の行方を探すため、探偵の波多野とともに捜査を始める。

2002年、第12回鮎川哲也賞最終候補作。2003年4月、一部改めたうえ、新風舎より刊行。



作者は愛知県出身で三重大学大学院修士課程修了。作品はこれだけのようだ。漫画家としての名義は江東星だそうだが、刊行されたものが無いところを見ると、同人活動のみの様子。本作品も新風舎という自費出版系の会社から出ているところから、自費出版なのかもしれない。「楽土」は、王粲の詩に出て来るとのこと。

最終候補作に残ったのだから多少は読みごたえがあるかと思っていたのだが、これが失敗。主人公の目の前に犯人が登場し、犯行の告白を聞きながら、何のリアクションも無し。仮にも大学講師が無断欠勤を続け、妻も失踪、妻の妹も失踪していたのなら、警察なり自治体なりが何らかの行動を起こしてもおかしくない。それ以上に、失踪したから家の権利証が欲しいなんて依頼、普通に考えたら犯罪だろう。登場人物全員がおかしな行動を取っているので、読んでいて腹が立ってくる。いくら刺されたとはいえ、気に入らない依頼者に接触したというだけで職員を解雇する弁護士などいるわけないだろう。法律、権利とうるさい弁護士が法を破ってどうする。主人公も犯人も、ピントがずれているとしか思えない行動ばかりとっている。

失踪は密室殺人事件という結末だったのだが、このトリックにも呆れた。説明不足が一つの原因かもしれないけれど、実行自体不可能でしょう、これ。ええと、ここはどこ?と聞きたくなるようなトリックだった。

作者の独りよがりが全開な作品。これがよく最終候補作にまで残ったな、と別の意味で感嘆した。作者には悪いけれど、読む価値ありません。