- 作者: 笹本稜平
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2014/01/10
- メディア: 単行本
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『別冊文藝春秋』299〜307号連載。2014年1月刊行。
笹本お得意の山岳冒険小説。今回の舞台はマッキンリー。マッキンリーといえば植村直己などの有名な登山家が亡くなった場所という程度の知識しかなかったが、実際は米連邦地名局による正式名称であり、先住民が呼び習わしているのは「大いなる者」を意味する「デナリ」が使われいるとのこと。マッキンリーの山々は6194mでヒマラヤより高さは劣るものの、気象条件は負けないくらい。山麓からの高度はエベレストの3700mに比べて5500mに達しており、そういう意味では「世界一高い山」でもある。
話としては、マッキンリーで消息を絶った津田悟を捜索する人々、そしてその周辺の人々を追ったものである。友を救うという想いのために、厳しい冬の山を捜し続ける人々、夫・友の生を信じ、救援隊を応援し続ける人々の姿は感動的である。また日本では理解されず、海外で孤高を貫きつつも、それだけの人々を動かす心と魅力のある津田という人物も、よく描けている。救援隊に入る親友吉沢國人、津田の妻祥子、救援隊に入るクライマー兼地元ガイドのハロルド・ジャクソンをはじめとする救援隊のメンバー、アサバスカ・インディアンの長老グレッグ・ワイズマン・ギーティング、アラスカ州空軍のニール・マシューズ州兵少尉など、魅力的な登場人物にあふれている。
自らが犠牲になる恐れがありながらも「人生の友」を探し続ける展開は感動を呼ぶものであるが、逆い言えばありきたりな展開ともいえる。普通に感動させるさせる物語を書くなら、津田を救出して後日談を書けば終わりだろう。しかし作者は、その先を用意した。津田は「戻ってこれるのか」。読者からしたら「余計な部分」であると思われても不思議ではない部分である。作者はなぜ救出で終わらせようとしなかったのか。作者は「魂の行方」を描きたかったのかもしれないが、実はこの答えを小説の中では語っていない。我々が問い続ける難題なのかもしれない。
大団円を迎えたかと思わせて、あえてその先の物語を用意するという展開に挑んだ作品。ただ個人的には、最後ぐらいすっきりした展開にして欲しかったというのが本音である。それは多くの読者にとっても同じではなかっただろうか。