- 作者: 水上勉
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 1960
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1960年12月、カッパ・ノベルスより刊行。
水上勉が売れっ子となっていたころに書かれた社会派推理小説。戦争の傷跡がまだまだ残っている時代という点を考慮しないと、今ひとつピンとこないところがあるかもしれない。そうでないと「事件が外国の兵隊に囲われねば生きてゆけなかった女の貧しさに端を発している」という言葉の意味がわからないだろう。
ただ、「推理」小説という点の面白さはほとんどない。事件が発生し、刑事が発見された新事実と勘に従って動くうちに犯人の姿が見えてくるだけである。その背景に社会的な問題があるというのが社会派推理小説らしさであるとはいえるが、こういう小説を夢もロマンもないとばっさり切り捨ててしまいたくなるのもわからないではない。
被害者の同僚とかがいて、もっとページを費やすことができれば、社会への訴えとなるような問題小説とはなったかもしれない。多分、そこまでの深みを持たせる余裕がなかったのだろう。言ってしまえば、この頃に量産された社会派推理小説の一つである。それだけ。