平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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山村美紗『花の棺』(光文社文庫)

花の棺 (光文社文庫)

花の棺 (光文社文庫)

華道・東流の小川麻衣子が毒殺された! 京流の久条麗子とともに、華道界をになうホープだった彼女こそ、名探偵・キャサリンが華道を習うはずの人であった。真相を探るうち第2の殺人が……。巨大な女の帝国の、裏面に渦巻く、醜さ、欲望、そして殺意! 舞台は京都。大胆なトリックが冴えわたる、傑作推理小説。(粗筋紹介より引用)

1975年9月、光文社、カッパ・ノベルスより書き下ろし刊行。1986年11月、光文社文庫化。



後に人気作家となる作者の第二長編であり、作者の代表作ともいえるキャサリンシリーズ第1作である。

アメリカ副大統領の娘であるキャサリンが、後に恋人となる浜口一郎とともに、華道の舞台における権力争いにまつわる連続殺人事件に挑む。トリックの女王と呼ばれる作者らしく、二番目の殺人は茶室における密室殺人事件である。事件の真相はなかなか凝ったものであり、読みごたえがある。とはいえ、副大統領令嬢という地位の高さを使った安易な立ち回りがあったのはちょっと残念。ある意味、都合よすぎる部分がある。それに、メロドラマっぽい仕上がりが見られるのは、女性作家ならではかもしれない。別に悪いわけではないのだが。

後にシリーズ化されて味は薄まってしまうものの、本作はまだまだ一作ごとに力を入れていた時期であり、この魅力的な名探偵を生み出したことと相まって、作者の代表作に相応しい仕上がりである。舞台となっている京都の描写も悪くない。多作家だからといってミステリファンからは毛嫌いされている感があるものの、初期の頃には力作も多く、読まないのは勿体ない。