- 作者: 高木彬光
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 1978/12
- メディア: 文庫
- クリック: 1回
- この商品を含むブログを見る
事件そのものについては触れたくもないほどおぞましいものである。その事件を引き起こしたのは、ほぼ永田の主張によるものというのが本書の書き方である。特に女性メンバーの殺害については、控訴審判決における「女性特有の執拗さ、底意地の悪さ、冷酷な加虐趣味」によるものという描き方である(もちろん、本書は裁判が始まる前に書かれている)。総括最後の犠牲者である山田孝が本書でこう語っている。
「悪魔だよ……人の血を、死ぬのを見ては、随喜の涙を流している女悪魔だよ……彼女に見込まれた男は運のつきなのだ……」
「彼女がこういう運動に加わったのも、本心は革命社会の実現というような理想のためじゃないだろう。ただ、自分でもどうにもおさえきれない破壊本能、血を見たくてしょうが吸血本能、それを満足させるため、あえて美名の看板をふりかざしていたんじゃないのかと、おれは、いまごろになって悟ったよ」
特に妊娠していた女性メンバーへの総括の下り、さらに腹から赤子だけを取り出そうと元医大生のメンバーに相談する下りは本当に恐ろしい。本当に「鬼」である。
作者の高木彬光は「(前略)私はいま手に入るだけの確実な資料によって、この事件を「再現」してみた。もちろんこの作品が百パーセントの「真相」だとは私も言いきれない。しかし、おそらく九十パーセントまで、そのかくされた「真相」に肉薄できたものだろうと、私は自信をもって断言できるのである」と著者の言葉で語っている。
本書は裁判前に書かれたものであり、その後の裁判や連合赤軍関係者による著書などで、本事件の詳細についても明らかになってきた。もちろん、この作品とは異なる部分もある。永田、坂口弘、坂東国夫は、事件の主導者が森であると訴えている。ただこの作品が、連合赤軍事件の恐ろしさを最もよく伝えているのではないかと私は思う。もちろん、小説家ならではの誇張した部分も多いであろうが。そして永田洋子という女姓の内面に迫ろうとした作品であることも。
それにしても、永田がこの本に対して訴えを起こさなかったのは不思議である。