平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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生田直親『誘拐197X年』(徳間文庫)

 

誘拐197X年 (徳間文庫)

誘拐197X年 (徳間文庫)

 

  大阪・堂島の超一流ホテルの結婚披露宴会場から花嫁が誘拐された。皇族と財界の政略結婚と言われ、政財界のトップクラスが列席中であった。左翼組織から三億円の身代金が要求され、大阪、神戸を中心に張りめぐらした捜査網にもかかわらず、身代金はまんまと奪われてしまったが……
 花嫁に加えられる奇妙な儀式。犯人と接触する新聞記者。救出か惨殺か。事件は栂池スキー場を背景に急展開した。(粗筋紹介より引用)
 1974年7月、産報より書下ろし単行本刊行。1985年5月、文庫化。

 

 作者はテレビ脚本家として活躍し、1962年には『煙の王様』(TBS)で第17回文部省芸術祭賞文部大臣賞を受賞している。本作品で小説家に転向した。
 脚本家が小説家に転向してデビューしたのだが、言い方は悪いが、テレビの脚本を書いた人らしいなあ、というのが読み終わった時の印象。場面場面はいいし、印象に残るシーンやせりふもあるのだが、全体的にどうもちぐはぐ。とにかく所々で山場を設け、それをつなぎ合わせたような作品になっているのだ。
 時代設定がちょっと不明だが、少なくとも1972年を超えているので、連合赤軍事件以降。すでに学生運動自体が下火だが、深化していたともいえ、事件を起こすというのはまだわかる。新聞記者と接触できる運動家がいたのかどうかはしらないが。まあそこはいいけれど、まず花嫁誘拐の手順がそれほど大掛かりなものでもないのに、こんなに簡単に成功してしまうなんて、大阪府警警備体制、甘すぎるだろう、と言いたい。小説だから仕方がないかと思いながら読んでいくが、身代金の奪う方法なんて、某映画を車にしただけだし、予想つかなかったのかと言いたい。警察があまりにもお粗末すぎ。
 小説の展開もちぐはぐ。警備部と公安部で対立しそうな割には後半で公安は全然出てこない。花嫁へのわけのわからない儀式もその後の展開ではほとんど使われないので、拍子抜け。前半から後半への展開についてはもう滅茶苦茶。小さい子供がいるのに、犯罪に簡単に加わるか? 下手すれば命を失うし、そもそも生き延びる目算もないのに。新聞記者たちだってそう。いくらスクープ命とはいっても、こういう形で警察を出し抜こうと考えるかね。世間から批判浴びること必至なのに。
 所々のセリフは悪くないし、映像化したら映えるだろうなあ、というような場面が所々で出てくる。結局、読者に飽きがこないよう、無理やり派手な、意表を突く展開を一定間隔で入れていったから、辻褄の合わない小説が完成した、という印象。連載ならまだしも書きおろしなんだから、もう少し整合性について考えればよかったのにと思う。