- 作者: 久能靖
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2002/04/01
- メディア: 文庫
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2000年、河出書房新社より単行本発売。2002年4月、文庫化。
あの有名なあさま山荘事件について、当時日本テレビのアナウンサーだった作者が、マスコミ側からの視点で描いた一冊。事件当事者、警察側から書かれた本は今まで多数あったが、当時実況放送をしたアナウンサーからの視点というのが面白かった。
テレビ中継、取材の舞台裏が描かれており、非常に興味深い。通信衛星が無く、マイクロ波だった時代。NHK、TBS(信越放送)、フジテレビ(長野放送)は系列局があったが、日本テレビは長野県に系列局はなく、機材やフィルムを東京から持ち込み、中継ポイントを地図から探し当て、パラボナアンテナを設置した。放送エリアが関東から外れているため、許可を出さないと電波法違反になるため、郵政省電波管理局からクレームがついた。宿泊・食事の前線基地確保にも苦労し、報道部の職員の知り合いの雑貨店を借りたが、食事の準備で商売はできなかった。しかしそれだけでは足りず、現場から一時間離れ、冬の間は閉まっていた温泉宿を探し出した。報道者の身の安全も含めた報道協定もあった。動きが少なくて喋ることが無くなり、同じことばかり喋った。フジテレビは二人のアナウンサーが交互にトイレや食事を済ませたが、日本テレビはそのような才覚が無く、トイレを我慢し、弁当も水も届けられなかった。
取材合戦についても語られている。ある新聞社のカメラマンは犯人にとびかかり、機動隊員に制されると、報道陣の列とは反対側の崖に回り込んでシャッターを切り、他社とは違うアングルの写真が撮れた。放送各社は山荘を見下ろす山の斜面にテレビカメラを設置していたが、逮捕がずれこんで日没後となり、当時のカメラの性能では映らなかった。しかしフジテレビは、犯人たちが連行される道路の脇に白黒の小型カメラを用意していたため、連行される五人の姿の生中継をスクープできた。
他にも当時人質だった女性夫婦の28年ぶりのインタビューも掲載されている。事件当時のインタビューで非難を浴び、真実を聞いてくれず捻じ曲げられ、貝のようになってしまった夫婦のインタビューは貴重である。
「真実」というほどの新しい事実があるわけでもないが、報道というものはどういうものだったかという点については非常に貴重だった。事件自体は供述や取材を基に事実を淡々と書いているので、余計な装飾が無く、当時の情景がかえって鮮明に伝わってくる。
あさま山荘事件について興味がある人、事件報道について興味がある人なら、ぜひ読んでほしい一冊である。