平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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高木彬光『誘拐 新装版』(光文社文庫)

誘拐 新装版 (光文社文庫)

誘拐 新装版 (光文社文庫)

戦史を愛読し、実際の営利誘拐事件の裁判を傍聴する犯人。巧妙な手口を駆使する彼の完全犯罪計画に、突破口は見いだせるのか? 熱血弁護士・百谷泉一郎は妻・明子の助言で一大作戦を敢行する。刑法と刑事訴訟法に精通し、法廷に通いつめた著者の、時代を画した傑作。「本山裁判」の傍聴記や、誘拐事件にまつわるエッセイを収録。(粗筋紹介より引用)

「宝石」1961年3月〜7月まで掲載。8月にカッパ・ノベルスより刊行。日本における誘拐ミステリの最大傑作の一つ。

他に「講談倶楽部」1960年12月に掲載された傍聴記「本山裁判」。「文藝春秋」1963年7月に掲載されたエッセイ「誘拐――二つの犯罪」。「幻影城」1975年9月増刊に掲載されたエッセイ「愚作を書け!」を収録。



懐かしくなって、高木作品を引き続き読む。『誘拐』を読んだのはもう30年近く前の話。祖父の本棚になぜかカッパ・ノベルス版があったのだ。実家にはまだあるはず。当時の思い出としては、身代金受け渡し付近のサスペンス、そして意外な犯人像、さらに最後のドンデン返し、と三拍子そろった傑作に大満足した記憶がある。

ということで久しぶりに読み返したのだが、いやあ、面白かった。さすがに古さは感じるものの、昔の印象と変わらない面白さを持っているというのは凄い。この誘拐の真相は今読んでも見事と言うしかないし、犯人を捕まえる一大作戦の奇抜さは素晴らしい。百谷が犯人を最後に嘲笑するところは、読者をアッと言わせるどんでん返しである。

今でも法律問題、被害者対策問題の一つとなっているある条文について、最後にさらっと触れているのは、高木彬光に先見の明があったということだろう。

『誘拐』は、今でも色褪せない誘拐ミステリの大傑作である。誘拐の規模やトリックなどはどんどん進化していったが、この作品の衝撃度にかなう作品はほとんどない。

日本における誘拐事件のスタートともいえる“雅樹ちゃん誘拐殺人事件”の傍聴記「本山裁判」も非常に興味深い。当時の裁判における、有名人の傍聴記というのはちょっと珍しいのではないだろうか。