平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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彩坂美月『夏の王国で目覚めない』(早川書房 ハヤカワ・ミステリワールド)

夏の王国で目覚めない (ハヤカワ・ミステリワールド)

夏の王国で目覚めない (ハヤカワ・ミステリワールド)

父が半年前に再婚し、新しい家庭になじめない高校生の天野美咲は、ミステリ作家・三島加深(みしま・かふか)の作品に触れることが一番の楽しみであった。正体不明のミステリ作家・三島加深は三年前にデビューし、三作の耽美なミステリ、一作の幻想小説を発表していたが、一年前から刊行が途切れていた。美咲はある日、加深のファンサイトに隠されていた掲示板を見つけ出し、加深が好きな仲間との会話を楽しむ毎日が続いた。だが<ジョーカー>という人物から【架空遊戯】に誘われ、すべてが一変した。役を演じながらミステリツアーに参加し、劇中の謎を解けば、加深の未発表作がもらえるという。集まったのは、いずれも掲示板でハンドルネームを名乗っているらしい7人の参加者。役柄はいずれも、一年前に事故死した作家・羽霧泉音の恋人や友人たち。寝台列車に乗った参加者は、それぞれの受信機から流れてくるメッセージに従って行動し、会話の中から泉音が死んだ謎を推理する。食事中に登場したのは、「謎の正体主」である泉音の弟、藍人。藍人は、一年前の事故は、実は殺人だったと断定し、誘われた参加者たちの中に犯人がいると指摘する。ところが架空のはずの推理劇で次々と人が消えていった。

2011年8月、書き下ろし。



作者(あやさか・みつき)は2009年、第7回富士見ヤングミステリー大賞準入選作『未成年儀式』でデビュー。本作は三作目。プロフィールを見るまで全く知らない作家だったが、帯に有栖川有栖推薦とあったことと、「2010年代のぼくたちのミステリ」などと書かれていたので、珍しく買ってみる気になった。

互いに顔も名前も知らないファンたちが集まって、役を演じながらツアーを続けるという設定は充分期待を持たせるものであったのだが、殺人が起きたと騒いでいる割に誰も離脱せず、指示に従い続ける点はかなり疑問。それだけ未発表原稿に魅力があったと作者は言いたいのだろうが、残念ながらその辺が全く書けていないため、説得力に欠けている。全員、裏を知っているのかとまで思ってしまったぐらい。それに、駅で新聞ぐらい買えるだろう! と言いたくなった。作中でも触れられているが、ネカマがいたらどうしたのだろう。それに誰か逃げ出していたら、どのような結末をつけるつもりだったのだろう。

根本的な矛盾を抱えたまま読み進めたため、終わっても驚きはなかったし、結局(周りから見たらつまらないことで)悩める若い人たちがわあわあ言っているだけにしか見えなかった。結局何をやりたかったのかがわからなかった。こういう作品が早川から出たこと自体がびっくりだが、編集者ももう少しアドバイスしろよとは言いたくなる。ヤングミステリ系ってみんなこうなの?