平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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佐々木丸美『夢館』(講談社文庫)

夢館 (講談社文庫)

夢館 (講談社文庫)

北の涯に建つ謎の館。誰も足を踏み入れぬ冷い地下室に私を閉じこめた重い石の扉。あの人を愛した罰で私は殺されるのだろうか。見えざる悪魔は第三の生贄に私を選んだのだろうか。私は必死に幻の電話のダイヤルを回しつづける。既視感覚に導かれて会いえた二人を襲う不可思議な事件を通して、精神世界の神秘と恐怖を描き出す超常ミステリー。(粗筋紹介より引用)

1980年3月、書き下ろしで発表。1988年12月、一部加筆修正のうえ文庫化。



『崖の館』『水に描かれた館』に続く館三部作最後の作品。前二作を読んでいないと、何のことだかさっぱりわからない。さらに言えば、『雪の断章』シリーズも読んでいた方が、よいかも。

冒頭に死んだはずの小さい千波が登場。しかも吹原が出てきて、何だこれはと首をひねる展開。よく読むとそれは、過去の作品に出てきた千波とは別人であることに気付かされる。あとは延々と心理的愛憎劇が繰り返されるだけ。周囲の人物を狂わせるぐらい愛されているのが吹原なんだが、一体どこにそんな魅力があるのかさっぱりわからない。そもそもそういう人物なんだよ、という前提で書かれているのだから、言うだけ無駄なんだろうが。

輪廻転生の概念に付いていけないから、読んでいて苦痛。とことんぶつけるだけの愛情も重いだけ。そこを受けいれるだけの好みがないと、この人の作品は読めないのだろうなあ。ドロドロのマグマを底に秘めたメルヘン恋愛小説。結局この人の館三部作は理解できなかった。