- 作者: 戸松淳矩
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2004/05/25
- メディア: 単行本
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2004年、書き下ろし。2005年、第58回日本推理作家協会賞長編賞受賞作。
『名探偵は千秋楽に謎を解く』『名探偵は九回裏に謎を解く』を1979年、1980年にソノラマ文庫より刊行。『隅田川幽霊グラフィティ』を1987年に『獅子王』に連載後、長く沈黙していた作者が、十数年をかけて書き上げた畢生の大作。『鮎川哲也と十三の謎'90』(だったっけ?)で予告されてから10年以上。創元らしく幻のままで終わるかと思われた作品がまさかの出版。毎度の如く新刊、しかもサイン入りで購入しながら、あまりのボリュームに今まで手を着けられなかった。今回、積ん読状態のものをようやく引っぱり出した。
読了後の感想を一言でいうと、面白かった。ただしそれは、歴史小説としての面白さ。日米修好通商条約の締結に伴って派遣された日本使節団のニューヨークにおけるその歓迎ぶりと、隠された政治的配慮、さらに日本使節団側の事情など知らないことばかり。人物、背景、風景、文化などが事細やかに記載されており、それが事実の羅列に終わるのではなく、小説として読めるように配慮されているから、最初こそ上長に感じたが、途中からは思ったよりページの進みが早かった。ただ、その面白さに事件の謎が隠れてしまっている。南北問題やそれに絡む奴隷の問題などを事件に絡めた手腕は買えるのだが、気が付いたら殺人事件が起きており、気が付いたら解決していた、という印象しかないのである。その連続殺人事件の謎が見立て殺人や密室を含む不可解なものばかり。特に必ず置かれている聖書の一部や、使節団が絡んでいることを暗示させているという謎は非常に魅力的。それでも、歴史的事実の圧倒的な記載に、これらの謎が印象の薄いものになっていることが非常に残念である。
確かに大作だし、待たされた甲斐はあったと思える作品である。ただし、職業作家ならここまで書かないだろう、と思わせる作品でもある。