平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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ミッチェル・スミス『ストーン・シティ』上下(新潮文庫)

ストーン・シティ〈上〉 (新潮文庫)

ストーン・シティ〈上〉 (新潮文庫)

ストーン・シティ〈下〉 (新潮文庫)

ストーン・シティ〈下〉 (新潮文庫)

ミッドウェスト大学の教授だったバウマンは、酔っ払い運転で少女を轢き殺したため、二千人の凶悪犯が収容された州立刑務所に服役している。刑期を無事に終えることだけを考えていた彼だが、所内で起きた連続殺人の捜査をする羽目に…。暴力沙汰とドラッグが蔓延するこの世界で、バウマンは果たして真犯人を突き止め、生き残ることができるか? 迫真の超大型エンターテインメント。(上巻粗筋より引用)

連続殺人の被害者メッツラーと親しかったゲイの青年、カズンズの助けを借り、事件の関係者を洗うバウマン。<終身刑囚クラブ><黒い国士軍>など囚人グループ間の苛烈な抗争に巻き込まれつつ、捜査を進めた末に浮かび上がったのは驚くべき事実だった……。舞台は一つの街ほどの規模を持つ巨大な重警備刑務所、主人公は元大学教授。ミッチェル・スミスが圧倒的な迫力で描く問題作。(下巻粗筋より引用)

1989年にアメリカで発表されたスミスの第二作。1993年8月翻訳。1993年「このミステリーがすごい!」海外部門第1位。



『エリー・クラインの収穫』は持っていたと思うが、読んだ記憶がない……。例によってとりあえず買うだけ買っておいたままになっていた作品。



あなたは、この小説を読み通せるほどタフですか? 重警備警務署という閉ざされた非情の空間に踏み入っていけるほど、強い心臓を持っていますか? 世間からはじき出された男たちの恐怖と暴力と孤独と失われた夢を、そっくり受け入れる覚悟がありますか? それなら、どうぞ、この石の都(ストーン・シティ)へいらっしゃい。



アメリカでペーパーバック化されたときの、版元シグネット社の挑戦的なキャッチコピーがこれ。はっきり言ってしまうと、私はそんな覚悟がないのでダメだった。いや、最後まで読んだのだが、結構後悔している。単に重苦しいだけならまだしも、そこに絶望というオーラがこれでもかとばかりに登場人物から発せられるのを読んでしまうと、こちらまで気分が重くなってしまう。それだけ作者の筆が凄いということなんだろうが。

そもそも交通事故加害者と終身刑囚が同じ刑務所に入るということ自体、日本では信じられない。アメリカの刑務所内での殺人事件というのも何件か聞いたことがある(ジェフリー・ダーマーとか)ので、この小説のような事件が起きても不思議ではないのだが……。

本題が始まるのは上巻の後半あたりから。それまでは“石の都市”の描写が延々と続く。本来だったら遅い、と文句を言っているところだが、この小説では逆にそれでよかったと思えてしまう。それぐらい何もかもが重い。いきなり事件から始まったら、とてもじゃないがついていけなかったところだ。

それにしても最後の最後まで重苦しい展開である。ホラーやスプラッタを読んだときとは別の意味で魘されそうだ。所詮絵空事じゃん、といいとばすだけの余裕がある人にしか薦められないね、これは。