- 作者: 笹本稜平
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2008/04
- メディア: 単行本
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男は自らの足取りを追ううちに、かつての仲間たちと出会う。マルセイユに住む元傭兵隊長のアラン・ピカール、国際的な武器商人戸崎真人。そして「檜垣」の妻であるミランダと会うために、PTSDを治療しているジュネーブのクリニックを訪ねるが、すでにミランダは「ヒガキ」によって連れ去られていた。自分は本当に「檜垣」なのか。次々と襲ってくる敵の正体は。誰が仲間で誰が敵か。男はひたすらに自分を追い続け、世界中を駆けめぐる。
「問題小説」2006年12月号〜2008年4月号掲載作品を大幅に加筆修正。
『フォックスストーン』『マングースの尻尾』に登場した伝説の傭兵、檜垣耀二が再登場。アフリカ北西部にある西サハラの領有権を巡ってモロッコとサギアエルハムラ・リオデオロ解放戦線(POLISARIO、ポリサリオ戦線)が対立している、いわゆる西サハラ問題を背景としている。いろいろなところで独立問題や紛争が起きているが、そういう世界の動きとは全く無関係のところで生きている日本人とはいえ、こういう問題が存在することを知らなかったというのは少々恥ずかしかった。
なぜ檜垣耀二が西サハラ問題で動いているのか、檜垣以外は誰もわからず、その檜垣が記憶を失っているという状況なので、敵も味方もさっぱりわからない、という状況である。しかし、そんな彼を無条件で助けようとするピエールや戸崎たちといった仲間との友情と信頼関係が、読むものの心を熱くさせる。
今回の戦いは、全てを知っているはずの檜垣が記憶を失っているからこそ起きているものであり、檜垣が記憶を取り戻せば、物語の様相はがらりと変わることになる。そこをどううまく処理するかが問題なのだが、この作品に限って言えば大失敗。記憶を取り戻すまでの物語は、冒険小説として満足のいくものであったが、記憶を取り戻してからは事件の背景を淡々と解説するだけで終わってしまう。そこには感動も感情も何もない。目に見える冒険とはまったく裏の世界で、密かに人々が暗躍する姿を箇条書きで並べているだけに過ぎない。記憶を取り戻してからをだらだら書くのは、確かに物語としては間延びしてしまうだけなのだが、読者にとって退屈な文章を読まされて終わってしまうというのは苦痛なこと。これだったら、事件の全てが解決した後で記憶を取り戻した方がずっとよかった。
竜頭蛇尾という言葉が当てはまってしまう、残念な冒険小説。3/4まで面白かったのだから、なおさらである。とはいえ、世界を舞台にした謀略小説を笹本が再び書いてくれたことはうれしいことである。檜垣やピエール、戸崎らの新しい冒険と活躍を読みたいと思うのは、私だけでないはずだ。