平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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森川哲郎『帝銀事件』(三一書房 三一新書)

「平沢貞道を救う会」の事務局長で作家の森川哲郎が、帝銀事件について一から洗い出し、疑問点を提示し、平沢の無実を証明した、として記した一冊。
帝銀事件については今更ここで書くまでもないと思うし、平沢貞道が無実であることはほぼ明白だろう。とはいえ、本書が出版された1964年ならまだ平沢=クロ説を唱える人も多かったと思う。
帝銀事件そのものは知っていたが、詳細についてはあまり調べたことがなかったので、今回改めて読んでみた。詳しい感想については後日別項で書くことにするが、驚いたことを一つ書いておきたい。
高木彬光に『法廷の魔女』という長編作品がある。百谷泉一郎弁護士ものの一冊で、複雑な関係の家庭内で起きた殺人事件の犯人とされた“魔女”の女性を百谷弁護士が弁護するものである。いわば『破戒裁判』の焼き直しみたいな法廷ものだが、前半部分は百谷自身が殺人事件に遭遇するなど、やや通俗っぽい仕上がりの一冊である。あっさり書いてしまえば、百谷は被告の女性の無罪を証明し、別の犯人を法廷で指摘するのだが、その無罪を証明する証拠物件というのが、帝銀事件の再審請求で実際に指摘された証拠物件とほぼ同じ内容だったのだ。当時の角川文庫の解説でもそのようなことは書かれていなかったし、てっきり高木自身のオリジナルトリックだと思っていた。
冤罪事件に興味があった高木彬光だから、帝銀事件についても当然注意を払っていただろう。ならばもっと明確な形でこのことを訴えてもよかったと思うのだが。百谷シリーズの『追跡』では冤罪の可能性が高いとされた「白鳥事件」をベースに書いているのだから。
高木ファンなら当然知っていることだったんだろうな。今頃知るなんて、ちょっと恥ずかしいかも。