平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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芦辺拓『怪人対名探偵』(講談社文庫)

怪人対名探偵 (講談社文庫)

怪人対名探偵 (講談社文庫)

下校途中に暴漢に襲われ、顔に傷を負った玲美。頻発する不穏な事件に落ちこむ彼女を励まそうと誘われた"コスプレ・パーティ"で、玲美は謎の<怪人>と出会う。時計台の磔刑、気球の絞首刑、監禁した美女への拷問…そして最後に森江春策が明かす驚愕の真相! 江戸川乱歩へ捧げる著者畢生の傑作本格ミステリ。(粗筋紹介より引用)

2000年、講談社ノベルスより書き下ろし刊行作品の文庫化。



著者が江戸川乱歩へ捧げるとあるとおり、乱歩通俗探偵小説を現代に甦らせようとした一作。文庫の帯でも「磔刑、絞首刑、美女監禁」と、いかにもといったキーワードが並ぶ。各章のタイトルも、乱歩らしい言葉が並ぶ。"殺人喜劇王"による復讐劇。残酷な、グロテスクともいえる連続殺人事件。捕らわれる名探偵。花筐城太郎(はながたみじょうたろう)(読めるか!)という名探偵に有明雅彦という少年助手まで登場。さらにメタっぽい要素を取り入れ、さらに本格ミステリとしても成立させようという、無茶すぎる試みに挑戦した努力は買いたい。ただ、さすがに贅沢すぎたか、無駄に長いだけで終わってしまったのは残念だが。通俗探偵小説と本格ミステリを融合させようとしてかえって反発し、現代における乱歩通俗要素が違和感を浮かび上がらせる結果に終わっている。"殺人喜劇王"対"名探偵"だけで通してくれるのなら、展開が大雑把で荒唐無稽だけど面白いという結果に終わったかもしれない。まあ、結果論である。

荒唐無稽で通そうとしないのなら、やはり現代に"怪人"が甦るだけの意味付けをもうちょっとしっかりしてほしかったところ。乱歩通俗で多くの読者が突っ込んだ、「何でそんな面倒なことをするの?」という疑問を増幅させてはいけない。

これは個人的に不快だったところだが、殺される側の心理を書きすぎ。乱歩は通俗探偵小説において結構グロテスクな殺人方法を書いてきたけれど、殺される側の恐怖はほとんど書いていないはず。書かれた場合は、死なないですむケースがほとんど。例外は『影男』かな。ただ、あれも後で後悔したと一応のフォローがある。いずれにしても乱歩は、読者にグロテスク以上のやり切れなさというものは与えてこなかった。そこのところを、もう少し作者には考えてほしかった。

試みは買うけれど、アイデアを詰め込みすぎた失敗作。そんな印象。