平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

緒川怜『霧のソレア』(光文社)

霧のソレア

霧のソレア

テロリストが誤って仕掛けた時限爆弾により、太平洋上を飛行中の289人を乗せたジャンボジェットが大破。機長を失うが女性副操縦士の奮闘で飛行機は成田空港へと向かっていった。

しかし突然、通信機器が使用不能となり地上との更新ができなくなる。飛行機をそのまま墜落させるため、アメリカが電子戦機を出動させ、電波妨害を始めたのだ。

――いったい何故?

米政府、CIA、日本政府、北朝鮮。権力同士の闇のつばぜり合いと、最後まであきらめない女性パイロットの活躍が息を呑む、壮大にして猛スピードで突き進むノンストップ・エンタテイメント。(帯より引用)

選考委員満場一致で第11回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞。



第11回日本ミステリー文学新人賞である本作は、手に汗握る航空パニック冒険小説。大破した飛行中のジェットをなんとか操縦して着陸しようとするが、地上から妨害を受けるというパターンは、トマス・ブロックの『超音速漂流』(改訂版が出ているとは知らなかった)にかなり似ているため、選評ではどう触れられていたのかが気になるところではある。爆破の原因が中南米問題に関連したテロリストによる時限爆弾によるものといったところや、地上からの妨害方法といった点に現代的要素を加味し、主人公にある過去を持った女性パイロットを据えた点は、新人にしてはよくできた方だと思う。

最初の方は様々な登場人物の背景を説明するのにページを多く使っているため、銃撃シーン等がありながらも波に乗れないところはあるのだが、ジャンボが飛び立ってからはパニックシーンの連続で、手に汗握る展開をうまく作り出している。飛行機や空港などの描写がやや細かく、それでいて物語のテンポを崩さないようにしたために、説明がわかりづらいものになっているのは少々残念だが、結末までエンタテイメントを貫いた点は評価してよい。

結末が類型的になったところは、この手の冒険小説では仕方がないところなのかもしれないし、新人としての限界なのかもしれないが、つまらなく思ってしまったのは事実。ここでもう一つ違った展開を見せるか、もしくは事件の真実を上回るような感動的な描写があったら、今年度の収穫といえたかとおもうと、ちょっとおしい。とはいえ、読んでみて損は全くない。映画のようなスリルとパニックを楽しみたい人なら、きっと満足するはずだ。

どうでもいいが、タイトルは応募時の『滑走路34』の方がよかったな。

さて、この作家に第2作が書けるだろうか。共同通信の記者らしいが、作者が自分の知っている知識を全部つぎ込んだ、という印象しか受けない。2作目でガラッと変わったものを出すことができるのなら、本物だと思うのだが。