平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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笹本稜平『極点飛行』(光文社)

極点飛行

極点飛行



南極を拠点に活動する極地パイロット、桐村彬。ある日彼は、チリの観測基地であるコンセプシオンIで生じた緊急事態のため、本州の端から端までに相当する長距離飛行をすることになる。コンセプシオンIの事実上の所有者、チリ有数の富豪である「アイスマン」ことリカルド・シラセと隊員が重傷を負った。ブリザードの中、必死の飛行を続ける飛行機の中で、その隊員は死んだ。傍らには、泣き続けるアイスマンの姪、ナオミがいた。ナオミと隊員は婚約していた。

桐村は副操縦士であるフェルナンドとともに、アイスマンに雇われることになる。アイスマンは南極の観測活動を名目で基地を買い取ったが、実際は「封印された黄金伝説」を追っていた。しかし、世界制覇をたくらむ組織がその黄金伝説を狙う。封印された歴史が明らかになるとき、欲望と裏切りが渦巻く冬の南極を舞台に、桐村は南極の空に飛び立つ。

小説宝石」2004年10月〜2005年6月号まで連載。冒険小説の新たなる旗手、笹本稜平最新長編。



南極で物資輸送や観光客相手を目的とした航空輸送の会社があるとは知らなかった。南極を舞台とした冒険小説もあまりないだろう。勉強不足で、私は一冊も思いつかないが。その点では作者の作戦勝ちだろう。出だしからの飛行シーンは、読者を物語に誘いこむのに十分なくらい、迫力満点である。

アイスマンに桐村が雇われるようになってから、物語は別の方向に動き出す。登場人物表を見てわかるとおり、敵はナチスシンパである。この時代でナチスかよとは思ってしまったが、親ナチスだった南米国をからめることにより、手垢が付いた題材という印象はそれなりに払拭されている。

問題はここからで、アイスマンやナオミ、桐村たちは何度もピンチに陥るのだ。これでもか、これでもかというぐらいである。そしてまたこれが都合良く切り抜けるのである。もちろん桐村たちに味方する仲間がいることも事実なのだが、ただのパイロットでしかない桐村が火器を平気で取り扱うなど、首をひねるシーンが多すぎる。敵側も情けない。素人に回避される程度の包囲網しか引いていないというのはどういうわけだ。油断をするにもほどがある。

主人公たちに何回も危機が迫り、読者が盛り上がる前に短いページで回避する。その繰り返しが続き、読んでいてイライラしてしまった。ここまで来ると、ご都合主義と書かれても仕方のないところだ。最大の欠点は、飛行シーンが少なすぎること。せっかくの舞台と主人公なのだから、荒れた天気の南極に立ち向かうシーンをメーンに据えるべきではなかったか。

雑誌連載のせいか、書いているうちに話がどんどん違う方向へ走ってしまったのだろう。せっかくの舞台と主人公なのに、勿体ない。桐村の元アル中など、生かし切れていない設定もある。できれば徹底的に改稿してほしいところだ。残念な一冊である。