平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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東川篤哉『もう誘拐なんてしない』(文藝春秋)

もう誘拐なんてしない

もう誘拐なんてしない

樽井翔太郎は、山口県下関市に住む二十歳の大学生。夏休みに入り、先輩甲本一樹が持っている軽トラックの屋台でたこ焼き屋のバイトをしていた。人の多い北九州市門司区で商売をしている途中、ひょんなことから女子高生の花園絵里香を助けることに。金が必要な絵里香のために、狂言誘拐をすることになった翔太郎は、一樹に助けを求める。しかし、絵里香の父親は花園組の組長。それでも一樹が立てた金の受け渡しトリックは成功するかと思えたが。

2008年、書き下ろし。



ユーモア本格ミステリでファンを増やしてきた東川篤哉の新作は誘拐もの。ややベタな、お約束過ぎる笑えない展開はあるものの、小気味よいテンポで物語がどんどん進み、読者を飽きさせない。被害者?側の父親や、姉のキャラクターも、なかなかのものだ。

誘拐ものからアッと驚く展開もよく考えられている。文章が軽い(ここでは褒め言葉)から苦労した跡は見られないが、結構凝ったことをやっている。ここの部分だけ見れば、誘拐ものとしては新機軸の展開であり、高い評価を与えてもいいと思う。

ただ、置いてけぼりの材料が多すぎるのは大きな欠点か。え、これはどうなったのとか、あれはいったいなんだったの?という出来事が多すぎる。作者が都合良く物語を作るためにエピソードを配置するのはどうかと思う。物語がテンポよく進むからなおさらだ。とんかつの肉は満足できたが、衣の部分が胃の中で消化しきれずにいつまでも残っているような気分だ。

ページ制限があったのかどうかわからないが、文庫化するときはあと100枚ぐらい書き足してほしいね。本筋だけとりあえず結末を迎えたが、枝の部分が置いてけぼりで、エピローグがないような未完成品である。読んでいる分には退屈しないけれど。