平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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東川篤哉『私の嫌いな探偵』(光文社)

私の嫌いな探偵

私の嫌いな探偵

うら若き美貌のビルオーナー、二宮朱美。二十代半ばにして、ビルの最上階に住まい、家賃収入で優雅に日々を送っている……はずが、なぜか、気がつけば奇妙なトラブルに振り回されてばかり。それもこれも、階下に入居している「鵜飼杜夫探偵事務所」がいけないのだ! 今日もまた、探偵事務所を根底から揺るがす大事件が巻き起こる!!(帯より引用)

ある夜、鵜飼杜夫探偵事務所がある黎明ビルで、揺れとともに人が血を流して倒れていた。バイト帰りの大学生は、その男の人が駐車場を全力疾走し、ビルの壁に激突する姿を目撃していた。「死に至る全力疾走の謎」。

妻からの依頼を受け、銀行員の夫の浮気現場を張り込む鵜飼と戸村。浮気現場の撮影には成功したが、3週間後、その夫が殺害され、砂川警部と志木刑事は妻を容疑者と睨む。妻は慌てて鵜飼のところへ助けを求めた。「探偵が撮ってしまった画」。

烏賊神神社の宮司の長男が、ある女姓と交際を始めたが、家族そろって大反対。宮司は、別れることができる過去の不祥事を捜してほしいと、朱美を通して鵜飼を神社に呼んだが、アルバイトの巫女が叫び声をあげた。彼女は「逆さまの祠」で女性の死体を見たのだが、彼女が人を呼びに行って戻ってみると、死体は消えていたのだ。捜しても死体は見つからなかったが、再び覗いてみるとやっぱり死体はあったのだ。「烏賊神家の一族の殺人」。

猪鹿村で、独身の市役所男性が崖から落ちて死んでいた。警察は事故と結論付けたが、母親は納得いかず、鵜飼に再調査を依頼した。鵜飼と朱美は猪鹿村で逢った中学生から、死体の口からエクトプラズムのようなぼんやりと輝く煙のようなものを見たと聞かされた。「死者は溜め息を漏らさない」。

鵜飼の事務所に、彼氏に別の女姓がいるかどうかを調べてほしいという依頼が舞い込む。男の部屋を向かいの空き家の二階から見張っていた鵜飼、朱美、戸村。モデル体型の女姓が入ってきたので意気込む鵜飼いたちだったが、男の部屋から煙が出てきて慌てて中に入ってみると、そこには男がナイフで刺されて殺されていた。「二〇四号室は燃えているか?」。

『宝石 ザ ミステリー』『ジャーロ』に2011〜2012年掲載。烏賊川市シリーズ最新作。



人気作家となった東川篤哉の原点ともいえる烏賊川市シリーズ。今回は助手の戸村の出番が少なく、代わりにビルオーナーである二宮朱美の出番が増えている。まあ、冴えない男の助手よりは、女姓の方が作品的にも見栄えがいいよな。個人的には、ドラマ化に向けての布石(=出版社側からの要望)じゃないかと思っているのだが。

このシリーズは、テンポの良さと馬鹿馬鹿しいギャグ、有り得ないような謎の設定とその解決が魅力なのだが、それに関しては本短編集でも健在。しかし短編の分、いずれもが薄味になっているところは少々残念。やはりこのシリーズは、長編の方が持ち味を発揮できると思う。

本短編集で個人的ベストは「死に至る全力疾走の謎」。戸村がほとんど出てこないのは残念だが、謎の馬鹿馬鹿しさでは群を抜いている。