- 作者: 桜庭一樹
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2007/10/30
- メディア: 単行本
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一見、おとなしそうな若い女
アパートの押入から漂う、罪の異臭
家族の愛とはなにか
越えてはならない、人と獣の境はどこにあるのか?
この世の裂け目に墜ちた父娘の過去に遡る―――
黒い冬の海と親子の禁忌を 圧倒的な筆力で描ききった著者の真骨頂!(帯より引用)
「別冊文藝春秋」2006年9月号〜2007年7月号掲載。
書評を読んでも実物を本屋で見ても、全く読む気にならなかった桜庭一樹を初めて読む。防衛反応が働いていたのは事実。多分、この作者を読んでも自分とは合わないだろうな、と。自分と合わないという予想は見事に当たった。どこが傑作なのかさっぱりわからない。
奥尻島の震災で家族を失った9歳の少女花を、25歳の淳悟が引き取った。二人は本当は、実の親娘だった。二人だけで16年間生きてきた。いつしか二人は、越えては行けない一線を越えていた。その事実に触れてしまった二人の男がいなくなった。花は成長し、やがて別の男と結婚した。新婚旅行から帰ってくると淳悟はいなくなっていた。花は泣いた。
単純に言うとそれだけの話である。あとはそこにどれだけの心理描写を加え、物語の深みを増すかということなのだが、作者は時系列を逆にし、視点を章毎に変えることによって、別の意味でクリアした。はっきりいってしまえば、構成に変化を加えることによって、時系列に語られるはずだった登場人物の内面の変化を無視する方向に出た。あえて他視点から語ることにより、この二人の純粋かついびつな愛情、二人を取り巻くねじれた感情などを浮かび上がらせようとしたのである。それは、徐々に謎の霧が晴れていくような面白さを生み出すことに成功した。
ただ、花や淳悟の心の変化がもやもやしたままなのは引っかかる。最後まで読み終えると、その膨れ上がった疑問は解けないままだった。花がなぜ別の男と結婚する気になったのか。淳悟はなぜ花を手放すことに同意したのか。作者はそれを描くことを拒否しているのだから文句を言っても仕方がないのだが。
夢野久作『瓶詰の地獄』を桜庭が描けばこうなるんだな、と思わせた作品だった。時系列で描いていたら、ただの「22才の別れ」だからな。