平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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深谷忠記『傷』(徳間書店)

傷

タイからの留学生、ウェラチャート・ヤンは、担当教授である針生田耕介に以前から肩を抱かれるなどのセクハラ行為を受けていたが、とうとう呼び出されたホテルで強姦されそうになった、と告発した。針生田は逮捕されたが冤罪を訴え、後に証拠不十分で釈放される。ヤンは同じ女子大学のフェミニズム研究会の面々の協力を受け、民事訴訟を起こすことを決めた。そして弁護士である香月佳美の元を訪れた。

入間市のはずれで、放火殺人事件が起きた。家の中にあった死体は、持ち主の息子と知り合いの女性。その女性の名前を聞いて、針生田耕介の妻、珠季は驚く。耕介の貸金庫にあった、200万円の振込金受取書。その宛先口座の女性の名前であったからだ。夫は放火殺人事件と関係があるのか。思いあまった珠季は、兄でありファミリーレストランチェーン店の社長である白井弘昭に相談する。

強姦未遂事件と放火殺人事件。二つの事件の接点はなにか。

2007年7月発売、書き下ろし。



ここのところ、力作を発表し続けている作者の最新刊。帯にある作者の言葉、「二重協奏曲(ミステリー)」という言葉が、期待感を膨らませたのだが、読み終わるとそれは失望に変わった。

二つの事件をどう結びつけるか、というところが最大の楽しみになるのだが、その真相は平凡なもの。作者は自信があったのかも知れないが、読み終わっても歓喜や驚きの拍手を送るとまではとてもいかなかった。その仕掛けにかかっている本作品なので、それが失敗に終わると作品自体が平凡なもので終わってしまう。文庫本だったらこれでもよかったけれどね。ハードカバーで自信満々にやられると、その期待感が裏切られた分の愕然度はよけい高まってしまう(変な言葉だ)。

本作品の失敗したところはもう一つ、救いらしい救いが全くないところか。いくら小説とはいえ、もう少し書き方があっただろうと言いたくなってしまう。読者に不快感だけを持たせたまま終わってしまうのは、やはりマイナスだと思う。作者は最後にその不快感を払拭したのだと思っているのだろうが、期待したほどの効果は得られない結末であった。

期待していただけに残念。次作で頑張って下さい。