平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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沼田まほかる『九月が永遠に続けば』(新潮社)

九月が永遠に続けば

九月が永遠に続けば

水沢佐知子は41歳。高校三年生の息子と一緒に暮らしている。離婚した精神科医の夫雄一郎のことは忘れられないが、自動車教習所の教官である25歳の犀田と、大人の関係を持っている。ある日の夜、佐知子は文彦にゴミ出しを頼む。文句を言いながら、文彦はゴミを出しに行き、そしてそのまま帰ってこなかった。何も持たず、文彦はどこへ行ったのか。もしかしたら何か犯罪に巻き込まれたのでは。不安に震える佐知子の元に飛び込んだのは、犀田がホームから落ちて列車に轢かれて死亡したという記事。もしかしたら文彦が犯人なのかも……。

2004年、第5回ホラーサスペンス大賞受賞作。



ホラーサスペンス大賞最後の作品は、日常の恐怖をリアルに書いたサスペンス。前触れもなくいなくなった息子への不安、次々と明らかになる事実に怯える平凡な中年女性の姿をリアルに捉えている。いきなり子供がいなくなるという話は、『消えた娘』が思い浮かぶのだが、あの作品ほどは人の内面を書き切れてはいないのが残念。

途中までは主人公の不安な気持ちがよく書けていると思うのだが、肝心の結末がつまらない。失踪の理由と周囲で起きる事件が、雰囲気をぶちこわしている。一言で言えば拍子抜け。リアリティを追求すれば、こういう結末がいちばん現実的なのかもしれないが。

「地に足がついた作品」という評は正しいが、足がつきすぎるのは物足りない。結末の着地が決まっていれば、日常に起きるサスペンスを描いた佳作になったかと思うと、非常に惜しい作品である。